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宴-en- 〜閻魔美少年と行く冥界世直し珍道中〜  作者: 風島ゆう
死を儚んではならない。
11/31

11.【守る側】と【奪う側】

「それで、貴様らは【どっち】だ」


「え」


 どっちとは?


 何と何を並べられて選択を迫られているのか分からずに、困惑する。分かるのは、ここで返答を間違えるとおっさんらと同じ末路が待っているのだろうということだけだ。


【あわわわわわ(ガクブル)】


 怯える文字に、固まる俺。ていうかガクブルって何だ!


「ま、【守る側】だ!」


 上ずる声で少年に答えたのは未だ俺の上に乗っている青年だった。


 合言葉のような単語に、少年が値踏みするような眼差しをこちらに向ける。

 ややあって、短いため息をつくと、刀を腰紐に差し入れた。


 どうやら戦闘イベントは回避できたらしい。


 ほっと胸をなで下ろしていると、背伸びして外を気にする少年の目を盗むように青年が俺に耳打ちした。


「しつこいようだけど、ここでは人間さえ味方とは限らない。君、さっきの古銭誰にも見せるなよ」


「え、なんで」


 首をひねって背後を見上げようとする俺に、ようやく乗り上げたままだった態勢に気がついたのか、青年が俺を解放した。


 いや重かった。


 圧迫感から逃れられた体に、思わず空気をたくさん送り込んでやる。深呼吸する俺に向かって、青年が続けた。


「争いの元になるからだよ」


 言いながら、青年が俺の尻ポケットに目をやる。


「六文銭は三途の渡し賃だが、ここでの通貨でもあるんだ。持っていれば持っているほど役に立つし、逆に奪われてしまったら道中何も手に入れることができなくなる。……しかも君が持っているその古銭は本物の一文銭だ」


「本物? あー、まあ確かに本物の古銭だろうけど」


「そうじゃなくて」


 ちょっと考えて、それから青年が子供を諭すような声で説明した。


「あのね。今時本物の寛永通宝持たせる家なんて普通ないんだよ。そもそも家にそんな古い金が残っている所だって少ないだろうし、金を燃やしたら犯罪だし、燃え残るものを棺に入れるのもタブーだし。今では古銭をプリントした布や紙で代用するのが通例になってる」


 だからね、と言い募る青年の顔がガチすぎてちょっと怖い。


「この冥界でも当然本物の古銭の流通は減ってるんだ。今じゃ本物の一文銭はプリントの一文銭の何千倍にも価値が跳ね上がって、仮に換金したら恐ろしい額になるよ。つまり君は今ものすごい富豪で、ものすごく狙われやすい身でもあるってわけ」


「狙われ……?」


 その言葉に、先ほど叩きのめされたおっさん達の最後を思い返して俺は事の重大さを理解した。


 それは大変だ。大変なレアアイテムが俺の尻ポケットにインされている。


「ところでその六文銭って、失くしちゃったらどうするの?」


 金が無ければ三途の川も渡れないと文字が言っていた。万が一奪われたり、失くしてしまったらどうしたらいいのだろう。


 俺の問いに「奪うしかないよ」と当たり前のように青年が答えた。


「う、奪うって、誰から」


「その辺の死者から強奪したり、鬼を出し抜いて強奪したり、色々だな。目の前でうっかり死ぬような死者に行き合えば、死体が消えるまでの僅かな時間に所持金だけ奪うこともできるからラッキーだけど。そうないね」


 つまりあれか。レベル上げと金稼ぎにフィールド出て雑魚キャラ倒す、やっぱRPGと一緒か。


 ふうむ、と俺なりに理解を深める横で青年が続ける。


「君だって見ただろ。あの子が叩きのめしたのは鬼じゃなくて人間だ。殺された方のおっさん達はたぶんあの子の所持金を狙ったんだ。二人で襲えば勝算があると思ったんだろうけど、相手が悪かったね」


 確かに少年は強すぎた。おっさん達がちょっと気の毒に思えるほど強かった。


 見ると少年は未だにこちらに背を向けている。黒い晴れ着の袖が風に膨らみ、細かく刺繍された菌糸が闇に舞うのがとても綺麗だ。


「つまり金を奪い合って殺し合うこともあるってことだよ」


 物騒な言葉をさらりと吐いて、青年が少年を睨んだ。


「あの子は変だ。狙ってくれと言わんばかりのあの華美な出で立ちもそうだけど、何よりあれだけ強いのにまだ第一法廷にもたどり着いてないなんて、おかしいよ。【守る側】と聞いて手を引いたけど、彼もそうだとは限らない」


 気を許すな、と真面目な顔で告げる青年に、しかし俺は間の抜けた質問しか返せない。


「あの、それ。【守る側】とか、【どっち】とかって、何?」


 青年が答えるより早く、意外な場所から声が上がった。


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