表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宴-en- 〜閻魔美少年と行く冥界世直し珍道中〜  作者: 風島ゆう
死を儚んではならない。
10/31

10.降ってきた美少年

「え」


「な、何?」


 反射的に上空を見上げる俺と青年。その頭上に、団子状にもみくちゃになった人影が三つ降ってきた。


「うわあああああ⁉︎」


【今度は何――――っ⁉︎】


 絶叫する俺と文字。青年は言葉を失って壁面にへばりついている。


 俺の頭を飛び越えて落下した人影は、着地すると同時に体勢を立て直し、争うようにぶつかり合った。


 構図としては、定年退職おめでとう! 世代のおっさんと、団塊の世代ど真ん中のやはりおっさんが、一瞬遅れて着地した少年に向かって短刀と懐刀で斬りかかっている形だ。


「危ないっ!」


 とっさに声を上げると、少年がちらりとこちらに視線を寄越した。


 青年というには少し若い。まだ幼さが残る頰は女性のように透き通った白い肌で、切れ長の目に意志の強そうな眉が麗人と呼ぶにふさわしい気品を滲ませている。


 年の頃は十七、八だろうか。

 ものすごい美少年だ。


 黒い詰襟シャツに黒いパンツ。利き手と思われる左手には手首までしっかり隠れる黒い革手袋。足元には黒のショートブーツと、黒、黒、黒の装いの上から、女物の黒い晴れ着を羽織り、やはり黒い腰紐でこれを留めていた。


 美しいが異様な出で立ちは明らかに周囲から明らかに浮いていて、だけど不思議と少年に似合って見えた。


 一瞬の隙を突いて、定年退職おめでとうが抜き身の短刀を少年に突き出す。へっぴり腰の上に襲撃の瞬間に目を瞑っていたから、慣れない行動であることは明らかだったが、


「いやいやどんなサスペンス⁉︎」


 ツッコミつつ、もはや反射で俺は踏み出した。


 どんな事情があるのか知らないが、あんな子どもに大人が二人掛かりなんて、いくらなんでもアンフェアだ。


「君っ、関わるな!」


「うぎゃっ」


 引き倒されて地面にこんにちはした俺は、本日二度目の顔面強打に見舞われる。

 止めたのは青年だ。真っ青な顔で背面から俺に乗り上げて動きを阻止していた。


「言ったろ! ここじゃ人間だって味方とは限らないんだ! 下手に関わると死ぬぞ!」


「そんなこと言っても子どもが」


 激痛に耐えつつ顔を上げると、件の少年が実に無駄のない動きで定年退職おめでとうの刃を薙ぎ払ったところだった。


 派手な格好に目がいって気づかなかったが、少年の手には黒い直刀が握られている。

 刀身は鞘に収められたままで、赤い組紐が抜刀を封じるように幾重にも巻かれていた。


 何だあの刀。


「ていうか何あの装備っ!」


 どいつもこいつも銃刀法違反がすぎやしないか。

 正当なる俺の疑問に文字が答える。


【あれ初期装備! 冥途の道中は何かと過酷だから納棺の際に守り刀を添える葬儀屋もあるの!】


「えっ」


 そんな装備俺にはなかった!

 ずるい! と言いかけた俺に向かって文字が高速で言葉を足した。


【けどあの子が持ってるあの直刀、あれおかしいよ! 守り刀であんなの添える葬儀屋なんてない!】 


 おかしい、と言われた刀を持つ少年は、遅れて飛びかかってきた団塊の世代に対峙している。


 キエエエエ、と発情期の雉みたい(知らんけど)な奇声を上げながら突っ込んでいく団塊の世代。少年の背後では、最初の一撃をいなされて態勢を崩していた定年退職おめでとうが、再び攻撃の姿勢に入っていた。


「おい! ヤバイぞ!」


 具体性に欠ける警告を放つと、「放っておけ!」と青年に頭をはたかれた。


 血走った目の団塊の世代が明確な殺意とともに少年の間合いに入る。

 ふと憂いた表情を垣間見せてから、少年が舞うように美しい身のこなしで相手の懐に飛び込むと腹のあたりを凄まじい勢いで叩き上げた。


「ぐっ!」


 うめき声だか衝撃音だか分からない音を漏らして、団塊の世代が転がる。

 その様子に一瞬固まった定年退職おめでとうの頭を、振り返りざまに容赦なく少年が叩き割った。


「ギャ――――っ‼︎」


【キャ――――――――っ‼︎】


 あまりの衝撃映像に絶叫する俺と文字。

 当のおっさん二人は声も無くその場に突っ伏した。


 やがて体が文字通り霧散して、消える。


 俺これ見たことある。シューティングゲームとかで倒した敵の末路だ。ていうかあれだろ! 一番最初にRPG作ったやつ、絶対これ見たことあるだろ!


 危なげなく二人を切り捨てた少年が、体の割に長い直刀を軽く振って手応えを確かめるように二、三度手首を返した。

 血濡れた直刀は、これまたRPGさながらすぐさま汚れが消え失せ、何事もなかったように少年の手に収まっている。


 刀に異常がないことを確かめた少年が、不機嫌そうな夜色の瞳をこちらに向けて、俺と青年を睨めつけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ