プロローグ
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日が西に落ち、空には月が自分の時間だというように神々しく輝いている。
そんな空の下、鷲宮町を見渡すようにそびえ立つ一つの公園には、まだ大人ではないとおぼしき二人の影があった。
そこに立っているのは黒髪を携えた少年と少年の二分の一ほどしか身長がないとも思われる小さな少女。
少女は言う、この世界は美しいと。
少年は言う、この世界は酷いと。
二つの影はそれきりぴたりとも動かずに静止する。
しばらくすると、少年の頬にするりと涙が通る。いや、その一滴だけではない。後からどんどん留めなく流れる。それを拭きもしないものだから、少年の顔は涙に濡れ、端からみてもみっともない顔だ。
少女はそれをめいいっぱい腕を伸ばし、自らの指で優しく拭き取り、言う。
「そろそろ、だよ」
少年はその言葉に返答もせず、頷きもしない。ただうつむき嗚咽を漏らす。行動自体はまるで赤子のよう。
少女は何も言わない。ただ優しく微笑みかけるだけ。
そんな状況が数秒続き、やっと少年は顔を上げる。その顔にはもう悲しみの色はない……訳ではない。
むしろ悲しみの先にたどり着いたかのような顔。
だが、その目には明確な決意が込められているように見えた。その目は真っ直ぐに少女の目をとらえている。
「ああ、行ってくるよ」
その言葉を聞いた少女は手を顔の位置に持ってきて左右に振る。
「バイバイ」
「うん」
少年がその言葉を受け入れるのを見ると、少女はゆっくりと自らのポケットから鋼色の何処にでもあるような、ごく一般的に皆が知るナイフを取り出す。
そしてそれを、少年の胸に突き刺す。だが、少女の行動に不自然さはつゆほども感じられない。ごく一般の動作のようにすら思える。
いや、逆にここで自然じゃなければおかしい。なぜなら、ナイフを持っているのは少女なのだから。
「うっ!」
ナイフに少年の血が伝わり、やがて地面に落ちる。
それに伴い、少年の顔から生気が薄れていく。
「最後くらいは、いい人生だったと言いたかった」
その言葉を最後に、少年は地に倒れる。
瞬間、世界が終わった。