プロローグ
初めまして、東雲 音風と申します。
この作品は僕の処女作になります。文や表現等にミスがあるかもしれませんが、そこは感想でお伝えしていただけたらな、と思います。それでは、この物語が無事完結するまでの間、どうぞよろしくお願いいたします。
つまらない。
俺は日常にそんなことを感じていた。ただただ毎日を同じように生きていくことに、何の意味があるのだろう。放課後、友達と帰ることさえも面白くない。
「ははっ。なぁ、颯馬もそう思うだろ?」
「ん、ああ、そうだな、誠」
全く話を聞いていなかったから、それらしい事を言う。返事をしないのは親友としていかかがなことだろうかと思ってもいたので、取り敢えず反応はした。それでも、何か起こる、という訳でもない。
「あっと、そういや今日は俺、塾だった。ここでお別れだな。じゃあな、颯馬」
「うん、また明日な」
その後も一人、二人と友達と別れ、家に帰りつく。
「ただいまー」
誰もいないのに玄関でそう呟く。この言葉を口にするのは何回目だろうか。いい加減、飽きてくる。リビングにはいつものように「温めて食べてください」と書かれ、ラップでくるめられた母の料理があった。颯馬の父はある有名な編集会社の社員で、母は街で一番大きい病院の看護師なので、夜遅くまで働くことが多い。
颯馬はいつもの通りに夕飯を済ませ、二階の自室へと向かう。
「はぁ、今日も平和だよな…」
ベッドに寝ころび、皮肉気味にぼそりと口から漏れるように囁く。
「そんなこと言っても何にもなんないよな。さて、そろそろあの時間だな…」
颯馬は勢いよく体を起こし、スマホをズボンのポケットから取り出す。そして動画アプリを立ち上げる。
「えーっと…。あったあった」
颯馬が探していたのは水面下で人気を博しているアニメの最新話の動画であった。颯馬はオタクではないのだが、父の会社から発行されている週刊マンガ誌で連載している作品を読み続けており、その作風に魅了された颯馬は、いちファンとしてこの作品をこよなく愛している。この時間が、颯馬にとって生きる意味でもあると言っても過言ではない。今の彼にとって、これ以外に心が躍ることはないのだ。
ちなみに、誠は小学生から生粋のオタクで、もちろんこのアニメも視聴している。そしてこのアニメを通して颯馬は誠と親友になったのである。
やがて放送が終わり、颯馬は再びベッドにダイブする。
「明日も、フツーに過ごすんだろうな…」
そんなことを呟きながら眠りに落ちていった。
翌朝になり、いつものまぶしいくらいの朝日で目を覚ます。まだ目は眠く、二度寝したい気持ちだったが、
「颯馬~。朝ご飯できてるよ!」
という、母の大きな声で意識が完全に覚醒した。
「はーい、着替えたらすぐ行く」
母に返事をし、制服に着替え始める。彼─五十嵐 颯馬は、進学校に通う、平凡な男子高校生である。その後、髪を整え、どたどたと階段を下りていく。そして、昨日は誰もいなかったリビングに足を運ぶと、そこには新聞を読んでいる父と、朝ご飯の準備をしている母がいた。
「おはよう、颯馬」
「うん、おはよう、父さん」
新聞で顔を隠しながらも、やさしい声であいさつをする父。颯馬にとって、毎日聞き逃すことのない、父の声が一日の始まりの象徴だ。
母の用意した朝食を平らげ、玄関へ向かう。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そうして、家を出る。
登校中は特に何もなく、いつも通り、授業五分前に学校に着いた。
「おはよう、五十嵐君」
「おっす、五十嵐!」
クラスメイト達が一斉に颯馬に挨拶する。
「おはよう、みんな」
颯馬はみんなに挨拶し返す。そして、自分の席へ向かい、着席する。すると、隣の席から、
「五十嵐くん、おはよう」
と、颯馬のクラスの委員長で、男子から"女神"と称されている、夢野 繭香が挨拶をしてきた。
「あ、うん。おはよう、夢野さん」
颯馬は先と同じように挨拶する。それと同時に、周囲の男子たちから、「お前名指しで挨拶されてるとはどういうことだよ」と言いたげな視線を受けた。これ以上繭香と話すと実力行使されそうなので、話しかけるのはやめることにした。するとその直後、背後から、
「よう!颯馬!」
と、親友の煌城 誠が声をかけてきた。
「やあ誠、俺は朝に弱いからそういうのはやめてくれよ…」
「悪い悪い。それよりさ、昨日の最新話見たか?」
誠は軽く謝り、本来話したかった話題へと会話を進める。
「うん、見た見た。中々ビジュアルよかったし、新キャラの声優も俺としては最高だよ」
今週の放送の感想を誠に伝える。すると誠は声を大きくして喜んだ。
「だよなー!俺、あの声優さん、昔っから好きだったから、この作品に出るの楽しみにしてたんだよ
!」
誠は体を乗り出してくる。彼が乗り出せば乗り出すほど、颯馬は体を後ろに引っ張られるかのように体を反らす。
「ま、まぁ、確かにな。つか、もう授業始まるぞ。席に戻らなくていいのか?」
誠の喜びが分からないわけではないが、時計を見ると授業の始まる時刻を指していたので、誠を興奮状態から引き戻そうとする。
「おわ、ほんとだ…。もっと颯馬と議論したかったんだが…。まぁ、昼休みにでも続きをするか」
「おう、そうだな」
誠と約束をする。誠は自分の席に戻っていった。やがてチャイムが鳴り、繭香の号令で授業が始まる。そうして、普段と変わりない一日が過ぎていく、そうなると颯馬は確信し、同時に退屈だとも感じた。
そのはずだった。