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田丸もとか、二十五歳。

 田丸もとか、二十五歳。まちまち食品株式会社に勤める社会人である。

 趣味はウィンドウショッピングと、美容グッズを集めること。最近はフェイスパックに凝っていて、「美白」「保湿」と名のつく商品には目がない。服よりも基礎化粧品にお金を使いたい派。せっけんは無添加にこだわる。

 好きな飲み物は紅茶で、特にピーチティーが好き。食べ物は旬の野菜が一番おいしい――と言いたいところなんだけどジャンクフードが好きすぎて困る。バーガーショップではてりやき系を頼むことが多い。ポテチは断然ギザギザ派。

 なお、現在独身で彼氏は募集中。料理はそこそこできるので、手作り弁当だってつくれるよ誰かデートに誘って!


 あ、でも今は勇者と戦ってるからちょっと待ってね。



「クックックッ……いい加減遊び疲れたぞ、勇者よ!」


 私は目の前にいる勇者の剣を難なく避けながら、そんな言葉を吐いていた。

 いやもうほんと疲れた。なんでこう、何回も挑戦しにくるかなあ?

 正直、勇者たちは初回(初会?)から全くと言っていいほどレベルアップしていない。たまーに、思いついたように防具を変えてくる程度だ。だから私からすれば勝つのは簡単だし、はっきり言って時間の無駄……って、あーもう。次の攻撃見えちゃってるってば。またアレでしょ? 勇者が右から攻めてきて、それをいなしてる間に、左から魔法使いが大きな火の玉飛ばしてくるアレでしょ?


「甘いわ!」


 そのパターン三回くらい見ちゃってるからさー、効かないんだよね。……もういいや、ちょっと申し訳ないけど、今日の戦闘はこれで終わらせてやろう。

 私は、右から襲ってきている勇者の頭を掴んだ。そうして難なく勇者を持ち上げ、左の方へとぶん投げた。

 左――すなわち、火の玉が飛んできてる方へと。


「ぐ、ぐわおおぉおおおおっほおぉぉん!!」


 勇者の変な悲鳴。

 味方の攻撃により、彼は今日も戦闘不能となった。


「か、カムイー!」


 仲間たちが叫ぶ。

 そして、その姿は瞬時に消え去った。



       *



 魔王として暮らし始めて一週間。

 この一週間で、色々知ったことがある。


 まず、この世界は夢でも何でもないということ。何故か知らないが私、田丸もとかは魔王としてこの世界で生きている。「田丸もとか」という人間が死んでしまって転生したのか、あるいはゲームの世界にでも転移して、姿かたちが変わってしまったのかは知らないが、ともかく今の私はまちまち食品株式会社勤務の「田丸もとか」ではないらしい。


 それと(さっきちらっと触れたけど)、この世界が「異世界」なのか「ゲームの世界」なのかは分かっていない。分かっていないが感覚的には、私が昔やっていたゲームに近い。

 それすなわち、「勇者が魔王を倒すRPG」だ。

 この世界にはHPやMPといった概念が存在しているし、恐らくレベルアップというやつもある。……というのは、勇者側がこの一週間で発した「MPが切れた」「レベルが足りない」という台詞で明らかとなった。

 余談だが、その手のゲームの主人公&正義は「勇者」であることが多い。

 じゃあなんで私が勇者でなく、悪役の「魔王」としてここにいるのか。


 知らねえよそんなこと!!


 ……おっといけない。口が悪くなってしまった。あと、イライラしてたらお肌に悪い。


 話を戻すけどこの世界、恐らくは「勇者が魔王を倒す」まで続くものだと思う。

 これまたRPGのゲームによくある設定だけど、勇者が魔王に倒されてもゲームオーバーにはならないのだ。たいていの場合勇者一行いっこうは生き返って、再び魔王に挑むことが許される。

 魔王が一度でも倒れてしまえば即エンディングとなるが、勇者が一度倒れてしまってもハイおしまいとはならない。


 なんたる理不尽!!(魔王的には)


 ということで、倒しても倒しても勇者が目の前に現れる。きつい。そろそろお休みが欲しい。かれこれ一週間、毎日戦ってるんだよ? そろそろ休んでもよくない? 日本で働いてた会社だって週に二日は休みくれてたよ? いかん、また話が脱線しはじめた。


 そんなこんなで毎日戦っているわけなんだけど、勇者のパーティーは基本、勇者さえ倒してしまえば「消えて」くれる。

 ……まあこれもゲームによくある設定なんだけど、主人公(勇者)が倒れてしまったらその戦闘は「負け」とみなされるんだよね。たとえ他の仲間たちがまだ戦える状態だとしても、最後のセーブポイントからやりなおしとなる。魔王視点で言うなら「勇者さえ倒してしまえば、勇者ご一行はセーブ地点まで戻ってくれる」のだ。

 というわけで私はここ三日間、勇者のみを狙って攻撃している。

 この世界が素晴らしいと思える点は、勇者が一人しかいないということだ。これでもしも……ええと、名前は言えないからちょっとボカすけど、赤い帽子がよく似合うマンマミーアおじさんみたいに「残機」という概念があったら私は泣いてる。

 ……ああ。あと、この世界にはもうひとつ素敵なものがある。


 勇者は一日に一回しか魔王に挑めない、というルールだ。


 何故かは知らないけれど、勇者たちが一日一回しか私のもとに現れない点から鑑みるに、そういうシステムになっているのだろう。これでもしも、ゲームみたいに「いつでも何回でも挑戦できるシステム」だったら私過労死してるからね。よかったよかった、よくないけどな!


 ……さて。ここまで考えてみると、気になるのはやはり次の点だ。



 勇者に倒されてしまったら、私はどうなるのか。



 これが本当にただのゲームなら、「やってみたら?」と簡単に言える。勇者に倒されたら日本に戻ってこれました、なんてことも考えられるからね。

 しかし、個人的にこの世界は「ゲームっぽい異世界」であってゲームではない。つまり、勇者に倒されるというイベントは、簡単に「やってみたら?」と言える事柄ではないのだ。

 何が言いたいのかと言えば。


「勇者に倒される」ことが、「私の死」に繋がる可能性があるということだ。


 さっきも言ったけれど、勇者は何度死んでもセーブポイントからリスタートできる。

 しかし、魔王が倒されたらそんなことはない。恐らく魔王側にはセーブポイントなんて概念もないだろうし、この世界で死んだら「田丸もとか」に戻れるなんてルールも確認できていない。確認できていない以上、安易に試すわけにもいかないだろう。

 更に気になるのは、時折視界に現れるこの数字だ。


【あなたが勇者を倒すべき回数は、残り23回です】


 ――この数字は、勇者に勝つたびひとつ減っている。勇者を倒す「べき」という文章も気になるところだ。

 この回数がゼロになるまで勝ち続けたら、どうなるのだろう。魔王側としてのエンディングを迎えられるのか?

 それってもしかして、日本に戻るイベントが発生するということではないのか?


 ――……分からない。


 色々と不確定なことは多いけど、私は勇者を「倒すべき」らしいし、勇者サイドは私に倒されてもやりなおしがきくみたいなので、


「絶対にお前を倒すぞ魔王ぉおぉぉぉ!!」

「クックックッ、しぶとい奴め……」


 とりあえず今日も、私は勇者を返り討ちにしておく。




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