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[ランキングタグを使って小説を書いてみた]ドロフォー・クエスト

作者: ばやとな

本文とランキングタグを合わせて一つの作品となっております。

世界観はドラ○エ、ストーリーはムダ○モ、登場するゲームはUN○をパク……アレンジしております。

最後まで読んでもらえると嬉しいです。

*人間と魔物たちの 長年にわたる争いは 人間側の勝利で 幕を閉じた。

*道拓く者たち と呼ばれる 8人の英雄が 激闘の末に 魔王を討ったとき 人々は平和が この世にもたらされたと 信じたのであった。

*その時の熱狂も 5年もすれば ひとまず落ち着きを見せ 大規模な争いにより 疲弊しきっていた街も 段々と活気を 取り戻しつつある。

*そして 今日は 2つの大国の トップに座する人物 モンドール国王と バトライア国王の 2人による会談が 開かれていた……

 

 

 

「いやー、これほど街の中がやかましいのは久々だな」


 国王会談を受けて人々がごった返すモンドール。その街道の脇に建つ道具屋。道にせり出したカウンターに腰を据えた僕がボソリとつぶやくと、1人の女性が人混みをかき分けてこちらの方にやってくる。


「すみません、千里眼の草はありませんか?」


 聞かれるのはこれで4回目ぐらいになるな。僕はさも残念そうにかぶりを振って、話しかけてきた女性に言葉を返す。

 

「ごめんなさい。千里眼の草は現在品切れになってます」


「そうですか……残念です。せっかく勇者様がこの街に来ているのに、この人混みじゃあよく見えないもので」


 がっくりと肩を落とす女性を見ると申し訳ない気持ちになるが、無いものを売ることはできないし仕方ないや。

 飲むことで遠くまで見渡せるようになる薬草『千里眼の草』は、こうなることを見越していた人達がこぞって買いに来たため、昨日の時点で売り切れてしまっていた。

 落胆してトボトボと来た道を引き返していった女性を見送り、懐中時計を取り出して時間を確認していると、不意に街道の方から大歓声が聞こえてくる。

 人混みのせいでよく見えないけれど、時間的にも国王様が凱旋をしているんだろうな。そしておそらく勇者様もその凱旋に付き添っているのだ。


「やっぱりすごい人気だよな、勇者様は……」


 歓声の源がどんどんこちらに近づいてくるに従って、自然とそんな言葉が口から漏れてしまった。

 今回の会談において、2人の国王様の護衛を務めているのが、道拓く者たちのリーダーにして魔王討伐を成し遂げた人物。

 

「セロさまー!」


「こっち向いてーー!」


 街道に群がっている人の多くは、国王様よりもむしろ勇者様のほうに惹かれているようだった。

 王としての威厳は大丈夫なのかな……と思わなくもないが、どうやらその勇者様を従えているということで自らの権力をアピールしているみたいだ。

 民衆からの人気を集めるのも国を治めるために必要なスキルの一つだよな、と、自分の中で納得する。

 ちょうど今、国王様が店の前を通っているっぽい。国王様が乗っている馬車の屋根だけが、なんとか視界の端に映っている。

 事前に公表されていたスケジュールによると、バトライア国王様はこの街で1泊していくらしい。今日はこのまま街一番の高級宿屋に向かうのだろう。

 国の王が泊まる部屋ってどんな感じなんだろう、あの馬車は一体いくらぐらいするんだろう……などと考えていたが、その馬車の屋根が先ほどから全く動いていないことに気づいた。

 

「こちらが……の……です、……国王様、……」

 

 なにかアクシデントでもあったのか、群衆からもどよめきが上がる。そしてこの店の前に集まっていた人たちがいきなり二手に分かれていった。

 屋根だけしか見えていなかった馬車の側面や車輪が見え、護衛を務めている勇者様の横顔が目に入り、そしてきらびやかな衣装に身を包んだバトライア国王様がこちらに歩いてきている。

 え? まさか国王様ともあろう人がこんな平凡な道具屋に用でもあるの? 

 ハハハ、冗談はやめてほしいですよ。カウンター越しにジロジロ見つめられても困りますって。冷やかしなら帰ってください……

 

「君がポプラくんかね?」


「えっ!?」


 初対面のバトライア国王様に本名をピンポイントで当てられたぞ!?


「あ、あの、いらっしゃいません! 千里眼の草は売り切れております!」


 何を買いに来たんだ! もし用意できなかったらモンドール国王様のメンツを潰すことにも繋がりかねないか!?

 接客マニュアルの中に『王様が来店した場合』の項目はあったっけ!?

 

「君がポプラくんかと聞いている」


「はい! そうです!」


 威圧感やばい。冷や汗やばい。笑顔で営業中? 笑顔ってなんだっけ?

 今にもフリーズしそうな思考の中で、バトライア国王様の声が聞こえてきた。


「ふむ、やはりか。道拓く者が1人、トネリコは不在かね?」


「え、ええ。父はここしばらくダンジョンに潜っていまして」


「ほう、さすがは道拓く者。老いてなおその身を戦いにやつすとは素晴らしき心構えだ」


 バトライア国王様の口から父さんの名前が出てきたことで、意識が現実へと引き戻される。

 そういえば僕の父さんって道拓く者たちの1人だったっけ……あまりにも身近な存在すぎてしばしば忘れがちだけど。

 なんにせよ、自慢の父さんを褒められて嬉しくないわけがない。ましてやその相手が大国の国王ともなれば、浮かれるなというほうが難しいだろう。

 そんな僕の心境を知ってか、バトライア国王様は更に言葉を続けてくる。


「君に話がある。後で私の泊まる宿屋に来るように」


「えぇっ!?」


 バトライア国王様から直々の名指し!?

 いきなり話しかけられた時と同じ、いやそれ以上の衝撃が僕の体を貫く。

 なんて返すのが正解なんだ、そもそもどういう用事なんだ。


「詳しいことはそこの兵士アルベルトにでも聞いてくれ。では」


「あ、あの!?」


 引き止める間もなく、バトライア国王様は馬車の中に乗り込んで再び凱旋を始めてしまった。

 未だに状況がつかめずボケッとしている僕に向かって、アルベルトと思われる兵士が話しかけてくる。

 

「うちの王様が泊まるのは、ホテル・モンドール。場所は……まあモンドール国民なら知ってるよな。日が沈む頃に来てくれ」


「は、はい。もう緊張してきた……胃薬草飲んでおこう」


 早めに店を閉めるか、母さんに店番を譲るかと考えていると、まだ話が終わっていないのか兵士が気さくに会話を続けた。


「しかし、ちょっと盗み聞きしちまったが、オマエ道拓く者トネリコの息子なんだってな。やっぱりあの勇者様とも仲がいいのか?」


「僕は勇者様とは数回しか話したことないですけど。むしろ父さんのほうが一緒に旅している分、勇者様とは親密だと思いますよ」


「それもそうか、まあ、それで十分なのかな」


「何がですか?」


「なんでもないさ。国王様の伝言を忘れるなよ。あと、アモーレの水を貰おうか」


 そういった兵士はボトルに入った天然水を購入すると、先に宿へと向かった国王様を追いかけるように来た道を戻っていった。

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 早めに店を閉めて、家にある中で一番フォーマルな服を身にまとい、言われたとおり日が沈む頃にホテル・モンドールの扉をくぐる。
 国王が泊まっているということで、兵士と従業員による厳戒態勢が敷かれているみたいだ。
 ビクビクしながら建物の中を歩いていると、フロントから出てきた従業員が声をかけてくる。

「お待ちしておりましたポプラ様。バトライア国王様とモンドール国王様の元へお連れいたします」

 そう言うとロビーを抜けて階段を下へと降りるよう促される。建物の豪華さにあっけにとられながら地下に潜ると、やがて重厚な扉が目の前に現れた。
 従業員の手により扉が開かれると、地下とは思えないほど広々とした空間が広がっている。円卓と椅子がいくつも置いてあったため、最初はレストランか酒場みたいだと思った。
 しかし、円卓のいくつかにはおよそ飲食店にはふさわしくないアイテム、ルーレットが置いてある。また、部屋の端にはスロットとかいうデカイ箱が設置されていた。
 
「カジノ・モンドール……」
 
 ホテル・モンドールの地下にはカジノがある……モンドールの住民間ではそこそこ有名な話だが、実際に入ってみるのは初めてのことだった。
 その円卓の1つに、モンドール国王様とバトライア国王様が僕を待っているかのように鎮座している。

「あ、あの、遅くなって申し訳ありません」

 遅刻したつもりはないけれど、ひとまず待たせたことを謝っておく。すると、バトライア国王様はニヤリとした笑みを浮かべて僕を机へと招いた。

「構わん、ではいきなりだが本題に移ろうか」

 そういったバトライア国王様は、懐から紙束を取り出して机の上に広げた。
 その紙束の1枚には赤色で1が書かれ、別の1枚には青色で書かれた4があり、緑色で書かれたスキップマーク、黄色で書かれたドロー2マーク。ワイルドドロー4……
 
「これは……MANA、ですか?」

 MANA。別名、異世界より生まれしカードゲーム。
 発祥不明、製作者不明、ダンジョンの奥深くでたまに見つかるが、それほど価値があるものには見えないため、回収されることはあまりない。
 武器防具と比べると実用性はないとはいえ、ゲームとしてはとても奥深いものだ。冒険者の間ではMANAを使った賭けごとがしばしば行われているとも聞いている。
 それはそれとして、なんで国王様がMANAを……と訝しんだ矢先、そのバトライア国王の声が地下の部屋に反響する。
 
「バトライアの自由市で見つけたんだ。私はこの手のゲームが好きでねえ、ルールを教えてもらえないか?」

「え゛!? 僕が国王様にMANAを!?」

「そうだ。ワシからもよろしく頼む」

 うぅ、モンドール国王様からも頼まれることになるなんて。
 しかも周りにはバトライア所属と思われる屈強な兵士たちまでいるし……断れるような雰囲気じゃない。
 大変なことになってしまったなと、どこか他人事のように考えながら、僕はMANAを手に取り遊び方について説明を始めていった。
 
 
 
 
「ここでは、手札が記号カードだけになるのを防ぐため、ワイルドカードを出します」

「ほうほう」

「ワイルドを出したことで手札が残り1枚になったため、『MANA』を宣言する……と。手札がなのでワイルドが定石ですが、あえて他の色を選ぶことで撹乱を狙うのもありです」

「なるほど。ワイルドと宣言すれば、他のプレーヤーはワシの手札をだろうと考えるのか」

 一時はどうなることかと思ったけれど、いざ説明を始めるとバトライア国王様はするするとルールを理解している。
 一国を治める王様ってやっぱり頭が良くないと務まらないのだろう。僕は暗算のスピードには自信があるけど、ひょっとしたら王様のほうがそういうのも得意なのかな。

炎の7でターンが回ってきたので、最後に残った炎の3を出して上がり。通常役として1つ前のプレーヤーの手札を足し、24点を貰って1セット終了です」

「いやはや、わかりやすい説明ありがとう」

「きょ、恐縮です。一通りのルールは説明できましたが、試しに1ラウンドやってみましょうか?」

 最初は気圧されるだけだったが、国王様と会話しているうちにだんだんと緊張もほぐれてきた感じがする。
 なんならここでコネクションでも作っておけば、今後の商売に好影響があるかもしれない……とかそんな事を考える余裕も出てきた。
 そんな期待も込めて、1ラウンドの勝負を申し出る。感触からすると断られることはないと思うけれど。
 
「おぉ、是非やらせてもらうとしよう」

 期待通りの返事に、心の中で小さくガッツポーズをとった。
 だが、その直後のことである。当のバトライア国王様の口から思わず耳を疑うような言葉が出てきたのは。

「そうだ、せっかくカジノにいることだし、少し賭けるってのはどうだ?」

「えぇ!? いやいや、初心者と賭けてMANAやるなんて申し訳ないですよ!」

「構わんよ。バトライアの男は本気の勝負を好むからね。レートは10点につき10枚でいいかね?」

 優しそうな笑みを浮かべながら賭けの提案をされている。武人の国バトライアの王は無類の勝負好きという噂があったけど、あれって決して大げさではなかったのか。
 
「どうした? やるのかね、やらないのかね?」

 ……ひょっとして、僕が接待プレイでわざと負けにくると読んで、その行為に釘を打つために賭けを提案したのかもしれない。
 まあ、正直さっきまで勝ち負けにはこだわってなかったけど……
 
「それじゃあ……やらせてもらいます」

 それなら、賭けの提案に乗っかろうじゃないか。
 こちらは何年も前からMANAで遊んでいるわけだし、MANA覚えたての初心者に負けるはずはない。まあ、あまりに圧勝しすぎても心象を悪くするだけだから、いい勝負になるようがんばるとするか。
 よし、そうと決まれば少しだけど稼がせてもらおう!
 
 
 
[1ラウンド 第1セット]

 シャッフルしたMANAカードが、僕、バトライア国王様、モンドール国王様の3人に7枚ずつ配られた後、山札の1番上から土の2が場札の1枚目として置かれた。
 最初にカードを置くのはバトライア国王様のはずだが、少し困惑したかのように手札と場札を交互に見つめている。
 
「ううむ、これは……」

 悩ましげにくぐもった声を出す国王様。もしかして初っ端から出せるカードがないのだろうか?
 なんにせよ、動いてもらわないとゲームが進まない。ルールの確認も兼ねて、僕は国王様に声をかける。

「出せるカードがなければ、山札から1枚引くんです。ちょっとアンラッキーですけど、まだ巻き返せますよ」

「いや……そうではなくてね……」

 そう言うと、国王様は自らの手を裏返し、7枚の手札を僕にへと見せつけてきた。
 土の7土の7炎の7炎の7水の7水の7風の7
 
「もう、上がってしまったのだよ」


[1ラウンド 第1セット 勝者:バトライア国王]


「ロ、ロイヤルセブン!?」

 いきなりこんな大物役が!?
 
「点数計算を頼めるかね?」

 そう言われるも、突然の出来事に頭の中が完全にパニックだ。えっと、初手上がりの特殊役だから……320点!?
 いやいや、いきなりこんなでっかいビハインドを食らってたまるか。幸いにも相手はMANA初心者。点数計算はごまかせるはず!
 
「え、えっと~。100……100点ですかね~、アハハハ……」

 苦し紛れの笑みを浮かべながら嘘の点数を教える僕に対して、バトライア国王様は笑みを消した。
 そして、鋭い眼光をその目に宿す。
 
「聞こえなかったな……何点だ?」

「100……」

「もう一度言う……何点だ!?」

「さ……320点です……」

「よし、では320点貰おう」

 結局、最初から大きなビハインドを背負うことになってしまったが、まさかこれがただの幕開けに過ぎなかったなんて、このときの僕はまだ想像もしていなかった。




[1ラウンド目 第2セット]

炎のスキップ水のスキップ MANA 飛んで水の6土の6 上がりだ」

[勝者:バトライア国王 96点]


[1ラウンド目 第5セット]

「よ、よし! ここで炎の5を出してMANA!」

「ホッホッホ、ワシにも運が向いてきたわい。 風の5風の6風の7風の8風の9で上がりじゃよ」

「へ……えぇ!? 直撃!?」

「直撃じゃ。堪忍堪忍」

[勝者:モンドール国王 108点]


[1ラウンド目 最終セット]

 い……1セットも勝てないなんてどういうことだ? とにかく、このまま負けたらとんでもない大損じゃないか。少しでもいい。巻き返さないと。
 手札は残り4枚。水の2土の2土のリバース、ワイルドドロー4。
 記号カードを全て消費してしまえば、勝ちの目も見えてくるのだけれど。

水のスキップ だ」

 バトライア国王様の出したスキップにより、モンドール国王様が飛び越されて僕のターンになった。 バトライア国王様の手札は残り2枚……仕掛ける!

「ワイルドドロー4! !」

 バトライア国王様がこのまま上がってしまうのを阻止するため、ワイルドドロー4を場に送り出す。
 当たれば相手の手札は6枚に逆戻り、まだ希望はある……
 
「ワイルドドロー4返し、、MANAだ。」

「これは堪忍、ワイルドドロー4ワイルドドロー4。じゃ」

 ………………と、トリプル……違う、クアドラプルワイルドドロー4!?
 
ビッグバン
十六新星爆発

*ポプラの手札に 16枚のカードが 加わった!

のままだったら上がってたのに、邪魔が入ったな……おや?」

*バトライア国王は 山札から1枚 カードを引いた!

「僥倖。炎の8水の8。上がりだ」

*バトライア国王は 手札を全て 使い切った!
*バトライア国王の 勝利!



 ……あ、あれ? 意識が飛んでたような。
 そうだ。僕はMANAで戦って、それで……

「それでは点数を確認しようか。私は1380点」

「ワシは972点じゃ」

「ぼ、僕は……マイナス852点!?」

 一瞬、見間違えたかと思ったが、点数表に記されている数字は確かに負の値を指し示している。
 500点スタートのこの勝負で、ゼロを切ってしまうのは惨敗も甚だしい。
 いっそ、絶対値で比べてしまえばいい勝負だったんじゃないかな。

「では、精算するか。880枚と470枚、出してもらおう」

 合わせて1350枚か……1枚20ゴールドだから27000ゴールドの大損……
 
「そんなわけなかろう」

「へ?」

 なにか計算が間違っていたかと思い返すも、思い当たることはない。
 そんなわけがないというのは、どういう意味なのだろうか。
 
「王に献上するものといえば、ちっさなメダルに決まっているだろ?」

「ち……ちっさなメダル1350枚!?」

 27000ゴールドどころの話ではない。そもそもそんなもん、払えるか!
 
「あるわけ無いでしょそんなレート!」

 立ち上がってそう詰めかかると、バトライア国王は両手を体の前で組んで僕を強く睨みつけた。
 組み合わせた手の内側が紅色に光り、魔力が爆発的に膨れ上がっていく!
 
「芽羅!」

「うあちぃいっ!?」

 初級の炎呪文が顔面をかすめる。椅子から転がり落ちて地面に這いつくばって、さっきまで対戦していた相手の顔を見上げた。

「さあ、払え。芽羅実、そして芽羅憎魔を撃たれたくなければな……」

 目が本気だ。そんな事言われても払えない。逃げる? 逃げるか? しかし回りこまれてしまう?

「あ、あぁ、あ……」

 言葉が出てこない。足がすくんで動けない。何も行動を起こせない。
 脳裏によぎる『死』の一文字で、心が絶望に染められた。その時。
 
「何をしてんだ、バトライアの国王!」

 カジノの扉が勢いよく開けられる音と、鋭く響く声が耳をつんざいた。
 誰? とかそんなことを思う余裕もなく、反射的に首を曲げる。幻聴でも幻覚でもない。開いた扉の向こうから、一人の青年がこちらに向かってきている。
 あの姿は……まさか!
 
「勇者様!?」

 驚きの声をあげた僕とは対象的に、2人の国王様はまるで勇者様が来ることを予期していたかのようだ。
 特にバトライア国王様はそのガッシリとした体を勇者様に向け、余裕しゃくしゃくと言葉を返す。

「私事だ。一介の雇われ兵である君こそ、なんの関係がある?」

「白々しい……そこで怯えているのは、俺の友人の一人息子だ。」

「そうらしいな。そして現在600万ゴールド相当の負債を抱えているみたいだが、代わりに支払ってくれるっていうのか、勇者様?」

 にらみ合う二人の間からは、ゴゴゴゴといった効果音が聞こえてきそうだ。
 カジノに似つかわしくない静寂が場を支配し、凶悪な魔物が巣食うダンジョンのように緊張感が張り詰めている。
 もうここは遊戯場じゃない。気を抜けば射抜かれ、スキあらば斬られる、つまり戦場だ。
 その戦場に足を踏み入れた勇者様は、そのまま僕が座っていた椅子に腰かける。

「わかった。MANAをしよう。レートはどうする?」

「10点につき10オリハルコンだ」

 ありえないレートに思わず血反吐を吐きかけた。王族にとってはこれが普通なの?
 僕が虚空に投げかけた質問は、誰にも答えてもらえない。その代わりに見張りで突っ立っていた兵士の1人が、未だ腰抜けの僕を無理やり円卓から引き離した。

「災難だったな。悪いが、この勝負が終わるまで拘束させてもらうぜ」

 言うが早いか、僕の両腕を後ろに縛り、逃げられないようにロープを握りしめる。
 ……ってアンタ、さっき俺の店でアモーレの水を買ってったアルベルト兵士じゃねーか!
 災難だったなって……まさか、こうなることを知ってたのか!?
 
「オマエはダシに使われたんだよ。勇者様をおびき寄せるためのな」

「ど、どういうことだ」

「この前、MANAで勇者様にコテンパンにやられてたからな、やられっぱなしは性に合わないのがうちの王様だ」

「待って、意味がわからない。そもそも国王様はMANAやるのは初めてのはずじゃ……」

「あれを見ても同じことが言えるのか?」

[1ラウンド目 第1セット]

*勇者セロは 7枚のカードを 手にした
炎の1 水の1 風の1 土の1 水の6 風の6 土の6

 僕のいる位置からは勇者様の初手札が見える。その中身に、思わず息を呑んだ。
 最速2ターンで勝負を決められる上、属性のバランスも完璧。
 これが……道拓く者のリーダーにして魔王討伐を成し遂げた人物、勇者セロ! そしてその『うんのよさ』!

*バトライア国王は 土のスキップを 出した

 だけど……

*バトライア国王は 土のリバースを 出した

「リバースだから、ワシの番じゃな」

*モンドール国王は 土のドロー2を 出した
*勇者セロの手札に 2枚のカードが 加わった!

「反撃が来る前に押し切らせてもらう。土の3土の4土の5!」

*バトライア国王は 手札を全て 使い切った!
[勝者:バトライア国王 48点]

 完全な連携……初心者とは程遠い、完璧な札消費……
 ここから導き出される結論は、一つしか無い!
 
「バトライア国王様は……熟練のMANAプレーヤーだったのか!?」

「ご明答だ。しかしこの前、どうもそこにいる勇者様とMANAをやってボロ負けしたそうだ。1000万ゴールドぐらい」

「いっせんま……!?」

「さらに言えば、モンドールの国王様も、その昔に勇者様にボロ負けしているみたいだぞ」

(なにしてんだよ国王と勇者!)

「リターンマッチとして仕組まれたのが今回の戦争だ。まあ、高みの見物と洒落込もうじゃないか」

 600万ゴールドの借金を背負っている身としてはそんな悠長な気分に浸っていられないんですがねぇ。
 しかし、この兵士による拘束は抜けられそうにない。逃げられる状況でないのは相変わらずだ。
 敵の策にまんまとはまって、戦いを眺めることしかできない現状が悔しい。そして腹ただしい。
 しかしそんな思いは戦場にいる3人にとっては関係のないこと。今はただ、この戦いの結末を見届けることにした。
 
[1ラウンド目 第2セット]

「伝説の勇者とは言え、ただの小童……そう思っていた相手に完敗する屈辱は、身にしみたぞ」

*バトライア国王は 風の0を 出した
*バトライア国王は MANAを 宣言した!

「直接やり返さないことには収まらん、どんな手を使ってでもな!」

*バトライア国王は 風の7を 出した
*バトライア国王は 手札を全て 使い切った!

[勝者:バトライア国王 35点]


[1ラウンド目 第3セット]

「国王としてのメンツを潰された以上は、勇者としてのメンツを潰さねばならん」

*バトライア国王は 風の2 風の2 水の2 水の2を出した
*バトライア国王は 手札を全て 使い切った!

[勝者:バトライア国王 72点]


[1ラウンド目 第4セット]

「卑怯なぞ関係あるか。勝利こそ正義!」

*バトライア国王は 炎の4 水の4 風の4 土の4を出した

カルテット
四属性の煌き

*バトライア国王は 手札を全て 使い切った!

[勝者:バトライア国王 160点]


 強い。強すぎる。なんだよあの化物は!?
 モンドール国王様が完全にサポートに回っていることもあるが、勇者様はほとんど何もできないままにバトライア国王様の猛攻に沈んでいく。
 あっという間に点差が開いていき、逆転が絶望的なレベルにまで達していた。
 
[1ラウンド目 最終セット]

*バトライア国王は 1035点を 持っている
*モンドール国王は 460点を 持っている
*勇者セロは 5点を 持っている

 反撃の狼煙も上がらないままに最終セットになってしまった。
 仮にこのセットで点数の移動がなかったとしても、勇者様は490オリハルコンを支払うことになるから……雑に計算しても2500万ゴールドレベルの敗北……
 勇者様と言えども、さすがにこの状況じゃどうしようもなかったのか……
 
*勇者セロは 7枚のカードを 手にした
炎の6 風の6 土の6 水の8 風の8 土の8 炎のドロー2

 うっ……これだけ負けていても、初手札はなんていう強さなんだ。
 どうせ負けるにしても、最後ぐらいは一矢報いてほしい……
 
*勇者セロは 炎のドロー2を 出した

 初手ドロー2、吉と出るか、凶とでるか……
 
「いきなりドロー2を出すとは、血迷ったか、勇者セロよ!」

*バトライア国王は 水のドロー2を 出した
*モンドール国王は 炎のドロー2を 出した

「だ、大凶だぁぁあ!」

 思わず心の底から叫ぶ。ああ、もう何もかもおしまいだ……
 本日2度目の、そしてさっき以上の絶望感に囚われたまま、勇者様がこれから引くであろう6枚のカードに視線を向けた。
 山札の頂上にある6枚のカードが何であれ、12枚のカードを保有している時点で逆転は絶望的。もはや勝ちの目はない。
 すべてを諦めかけた、その時のことだった。
 
「まだ勝負は終わってない、ポプラ」

「……」

「どんな絶望の中でも、もがき、生きる。それが道拓く者の決意だ」

「で、でも、1030点差なんて……」

「確かにピンチだな、でもトネリコさんならこう言うだろうぜ……『とりあえず落ち着きましょう、そうすれば活路が見えてきますよ』ってな」

 似てもいない口真似で、父さんのいいそうなセリフを言う勇者様。
 その背中は……勇者様が、勇者様である理由を雄弁に物語っているようだった。
 
「ふん。確かに勝負は終わってないな。はやく6枚のカードを引いてくれぬことには、進めることもできん」

 しかしバトライア国王様はというと、なかなか次のプレーに移らない勇者様にしびれを切らしたのか、6枚のカードを引くよう促してくる。
 勇者様もそれはわかっているのだろう。大きく息を吸い込むと、手札を自らの前に構えた。

「それじゃあ、引くぜ」

 その言葉は、バトライア国王様にというよりは……むしろ、僕に向かって宣言している……ように、聞こえた。
 
*勇者セロは 1枚目を 引いた!
*勇者セロの 手札 炎の0 炎の1 炎の6 土の6 水の8 風の8 土の8

「ふぇっ!?」

 あれ!? さっきまで属性は炎の6しかなかったはずだ、なんでいきなり3枚に!?
 
*勇者セロは 2枚目を 引いた!
*勇者セロの 手札 炎の0 炎の1 炎の2 炎の6 炎の7 水の8 風の8 土の8

 まただ。3枚が5枚に! どういうことだ!?
 勇者様の手札から他の属性が消え、で侵食されていく。どういう仕組みなんだ!?
 いきなり起こった超常現象を確かめるため、卓上全てに目を凝らす。

*勇者セロは 3枚目を 引いた!

 その瞬間、勇者様の手札から水の8が消える。いや、消えたわけじゃない、目にも留まらぬ早業で、右手中に隠し持っている。
 3枚目を引く瞬間、隠し持ったカードを山札に差し込み、そして頂上からは2枚のカードを回収している!
 
*勇者セロの 手札 炎の0 炎の1 炎の2 炎の4 炎の6 炎の7 炎のスキップ 風の8 土の8

 国王様には全くバレずに、一切のミスなしに淡々と繰り返す。
 だが、このイカサマは、僕のように後ろから見ている人間にはバレバレ。それを指摘できる人物は……!

「ちょ、おいっ!?」

 僕を拘束している兵士。彼も驚きのあまり、僕への注意が疎かになっていた。
 イカサマを指摘しようとしたスキを突いて拘束を振りほどき、横腹に全力で蹴りを入れる。

「待ウグッ!?」

 硬い感触が足に響く。大したダメージは入っていないだろうけど、尻餅をつかせることには成功した。
 追撃はしない。倒れた兵士に背中を向けると、カジノの扉に向かって走り出す。
 確かに勝負は終わっていなかった。必ず回り込まれるとしても、『逃げる』の選択は無意味じゃない!
 
「何をしているアルベルト! 逃がすな!」

「し、しかし!」

「いけ!」

 後ろを振り返ると、今のドサクサに紛れて勇者様が6枚のカードを引き終わっている。
 本来であれば絶望的としか言えない12枚の手札は、いまや相手の息の根をとめるための切り札となっていた。

「急いで終わらせるぞ、炎のリバース!」

 出せるカードがそれしかなかったのか、バトライア国王様の出したカードは、そのまま勇者様の必殺技をアシストしてしまう。
 死闘を締めくくる一手が、今、勇者の手札から爆発する!

「そうだな、急いで終わらせるぜ! 炎のスキップ炎のスキップ! 飛んで、」

ロイヤル
炎の0 炎の1 炎の2
ストレート
炎の3 炎の4 炎の5 炎の6
フレイム
炎の7 炎の8 炎の9!!!



「「ろ……ロイヤルストレートフレイム!!!???」」

「超特殊役につき960点! 責任払いによりバトライアの国王720点、モンドールの国王240点!」

*最終得点
*勇者セロ    965点
*バトライア国王 315点
*モンドール国王 220点

「「…………!!」」

「まだ、続けるか?」

「い、否……参った……」


 敗北を認めた2人の国王は、がっくりと肩を落とす。
 カジノの扉目前で捕まった僕の目には、悠然と立つ勇者の姿が映っていた。
 
 
 カジノを出て、勇者様に護衛されるかのように家へと向かう。
 まるで夢幻のような時間だったが、迷惑料としてもらった1オリハルコンの重みが先ほどの出来事を現実だと教えてくれた。

「ありがとうございました。勇者様……」

「いや、こちらとしてもすまんかった。あの2人の国王は、2度と歯向かう気が起きないよう、改めてボコボコにしておくよ」

「そこまでしなくても……ところで勇者様」

 もう、家が視界に入るまで近づいていた。家についたら、名残惜しいけどお別れだ。
 その前に、あの戦いっぷりを見せられて、ずっと疑問に思っていたことを聞かなければ。

「勇者様は、どうしてあれほどまでにMANAを極めているのですか……?」

 そんな僕の疑問に対して、勇者様はどこか遠くを見つめるような顔をした。
 そして、ポツリと呟く。

「負けないため……そうだ。負けないためだ」

 それはどういう……と聞こうとしたが、すでに勇者様の姿はそこにはない。
 転移魔法を使った気配だけが、暗い夜道に少し残っていた。
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