4話
「目覚めよ人間。否、ユウシャサマ……か」
冷たい液体を浴びせられ目覚めると、其処は懐かしささえ感じてしまう牢獄の中だった。
「やっと目覚めたか勇者よ。私こそは西の魔王“アルフ・ラ・エンヴィーヌ・メゾフォルテ・モミソゴーン十三世”だ。見た目は美少年だが、歴代史上最大の魔力を持っていて凄く強いよ。その気になったら東南北全ての地方に住まう他の魔王を屈服させられるよ。あと、魔族でありながら人間にも感情を寄せる一面もあったりして、それで魔族間に問題が起きる王道イベントも完備しているよ」
魔王まで御丁寧に自己紹介とは、なんと親切な。だが、色々と長い。
「……魔王様、ご命令通り勇者を連れて参りました。褒美に、お約束通りアリアバン国王討伐の兵をお貸しください!!」
魔王の後ろには見覚えのある巨乳、イデアが居た。
過去、女関係で色々と痛い思いをした私は、ははーンと流れを理解した。
「エルフ風情が我に物を申すか? 約束では生け捕りにしろと命じた筈。だが、お前は自らの感情を抑えきれずに、この人間を殺そうとした。故に約束は無効だ。我が前から消えろ」
冷淡に攻める魔王の言葉に慌てた巨乳は「その男がズボンを」……と言い掛けたので、座右の銘が“先手必勝・急がば回れ”な私は、咄嗟に動いた。
「ヒグチカッター!!」
私を拘束していた禍々しい形をした手錠っぽいやつとか、檻とか、なんかそーゆーのを全て切った。
「……!! それが伝説に聞く“全てを切り裂く刃”と言われる物か。成程、ただ切るでなく其処にある存在を分断させる……」
驚き、何やらぶつぶつ呟く魔王を確認すると、私は巨乳……イデアに目線を送る。
≪雰囲気を壊すエピソード言うたらアカンやでぇ!≫
自慢だが、社会経験が長いとアイコンタクトとかはお手の物だ。しかし、イデアは項垂れているだけで察しない。この女、さては私に惚れて直視できないのだな。
取り敢えず、ズボンを下ろした。
……しまった、町内でも比較的落ち着いた雰囲気の紳士と名高い私が、ついついエクスカリバーを包み込む可愛い下着を披露してしまった。慌てて魔王を見ると、とてつもなく冷めた視線で我がエクスカリバーの膨らみを見つめている。
「無益な戦いは好まない。得があったとしても多少の犠牲を寛容する趣味もない。人間とは欲を抑える理性すら無きケダモノの様だが、我は対話による和解と協定を望む」
魔王の突飛な提案に、私の聖剣が上下に頷く。
これでも私は営業マンだ。人心の掌握はお手の物だ! 相手は人ではないが問題無い! あと、一度も契約を取った事が無いけれど私はやればできる子だ!
――和平への道は決裂した。