2話
そんな淡い妄想を抱くも、気が付くと勇者私は薄暗い牢獄の中に居た。
姫君が想像を超える美少女で、胸がメロンサイズだった事が災いした。
私の中に眠る獅子が目覚めて、ついついズボンを下ろしてしまったのだ。それを見た王は怒り狂い、私は牢獄へと送られた。いやぁ、失敗した。だがしかし、こんな窮地でも勇者であり主人公である私だ……次の展開が待っている筈。
――…… 三年後
うん、未だに牢獄生活だ。
此処にスペシャル海老フライ弁当は無いが、仕事をしなくても良い生活に満足している。現代社会人は働き過ぎなのだと、在り来たりだが実感する。
昔から私は状況に適応する事ができる強い子なのだ。しかも此処は王国の牢獄だからか、囚人用のご飯も悪く無い。そうだ、姫君の平和は誰かに任せよう。
怠惰な日々を貪る私の右手に、いつの間にか握り締めていた小さなハサミがあるのに気付いた。これは……。
「ヒグチカッター―ー!!」
私を社会から守ってくれていた檻は音を立てずに引き裂かれた。その異常な光景を見ていた衛兵が慌てて逃げ去る。
三年間ハサミを握り締めていたのかと云う小さな事はさておき、勇者私を閉じ込める事は誰にもできない!
まあ、勢いと云うか流れと云うか、そんな感じなので少し名残惜しいのだが……牢を破った今、このまま此処に居る事が危険なのは頭脳明晰沈着冷静な私のオツムであれば分かる。よし、逃げよう!
……嗚呼、しまった。場面切り替えで何処ぞへ移動かと思いきや、三年間堕落していた生活に溺れた私は、ついつい寝ていた。
思えば、私はいつもこうだ。
やらなければいけない事は分かっているのに、行動するのが億劫で何もかも後手に回ってしまう。ビットコインだって、もっと早めに買おうと思っていたタイプだ。
いつも、人生に逆襲されてばかりだ。
「勇者様! 待たれよ勇者様!」
またも事態を放って呆けていると、兵を引き連れた王様が現れた。
「オリハルコン製風の牢獄を容易く切り裂くとは、まさに伝説の勇者様! 我が国に遥か昔から言い伝えられている“全てを切り裂く刃を操りし勇者”とは貴方様だ! 魔王を、魔王討伐を!!」
――五十三歳となった私は、あれよあれよと云う間に魔王討伐へ向かう事になった。うん、なんとかなるものだ。困った時は寝たり呆けたりしてみると良い。なんとかなるものだ。
王様曰く、西の地に巣食う、魔王率いる魔族達を打ち倒して欲しいとの事だ。倒した暁には、姫君とのチョメチョメをチョーだいできる。これはもう、私の下腹部で持て余している巨人が進撃してしまう程に興奮を抑えられぬ。
更に、二人の従者付きだ。本格的なファンタジーRPGみたいだ。