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~heroes&heroines~  作者: 筆者 - 心葉 ブリキ / 原作 - 竜造寺 ソーマ
6/6

#06

 パチパチ、パチパチ。真夜中に光る焚き火の灯り。激しく忙しく濃い一日が終わり、やっと戻って来た静けさに、小さな火種が弾ける音が聞こえる。すっかり安心したのかクゥリとリッテラが寝息を立てて眠るのを眺めながら、リンとクロガネは焚き火の番をしていた。


  なんとなしに今日はあんまり眠くないからと、一緒に番を名乗り出て小一時間。本当は疲れていたし、クロガネの代わりに頑張りたかったけれど、何より少しだけ話をしたかった。


  「一人で」よりは「一緒に」の方が良いだなんて、自己満足かもしれないけれど。今はそれでもいい。


「今日はほんとごめんな。まさかクマがのこのこ森の外に出てくるなんて思わなくて」

「もう、ほんとビックリしたのよ?クゥリたちとは逸れちゃうし、全然見つからないしで」

「だからごめんって」

「いいよ、助けてくれたもん」


  ちょっとした言葉の応酬を挟みながら、二人は火の番をする。少し肌寒いのは夜だからだろう。それを緩和させてくれる赤橙色の揺らめきに手をかざしながら、リンは意地悪く笑った。


  申し訳ないと思っているのはこちらの方だ。けれどそれを伝えたとしても彼は困った顔をするだけだろうし、それよりもこうして感謝を伝える方がよほど良いことのように思えた。


  ……結局リンの《クロガネの力になろうキャンペーン》は失敗に終わった。普段慣れないことをしようとすると、とんだ空まわりになってしまうのだと、身を以て痛いほど知った。料理なんてその最たるもので、クロガネの作ったものには敵わないし、何かをしようとすればするほど逆にやることが増えてしまうという事態だ。人は身の丈に合った物事を知るべきである。これが今回リンの学んだ教訓だ。


「……クロガネは、ヒーローの定義って何だと思う?」

「定義?どうしてそんなこと」

「えっと……クゥリくんに訊かれたの」


  クゥリは自身のことを不甲斐ない兄だと、頼りなく力もないただの子どもであると評していた。自分ではきっと妹を救えるヒーローなどにはなれないのだと、輝かしいその理想には到底届かないと。届かないからこそ求めてしまう、少年のなりたい姿のその定義は、決してヒーローではないリンには答えられなかった。


「ヒーロー、かぁ……」


  クロガネは顎に手を当てて考える。時折伏せられる瞼は、その健気な少年の想いに共感するところがあるからだろうか。やはりクロガネとクゥリは、ほんの少しだけ似ている気がする。


  クロガネはじぃとその瞳を見つめるリンに「あのぅ、リンさーん……?」と、居たたまれなくなったのか、こほんと咳払い一つ。どうやら回答を急かされていると思ったらしい。別にそういうわけではないのだが、やがて彼の中では一つの答えが出たようだ。


「んー……俺が思うになんだけどさ」

「うん」


  前置きを置いてから、彼は自信がなさそうに話し出す。自分の考えを伝えるということは存外怖いものだ。間違っているかもしれないし、否定されるかもしれない。彼は自分が絶対正しい、なんてことは思わないタイプだろうので、特にそうだろう。


  それでも彼が「あくまで自分が思うこと」を伝えてくれるということは、少しでも信頼関係が育めている証なのだと信じたい。


  クロガネは口を開く。それからほんの少しだけタイムラグがあって、彼の唇から呼気が漏れて。そして、


「ヒロインがいるからきっと、ヒーローになれるんじゃないかな」


  そんなことを言った。


「…………ヒロイン?」

「そ、ヒロイン」


  同じ言葉を繰り返し尋ねて、リンは素っ頓狂に声を出す。それは「ヒーローの何たるか」の返しを予想していたリンにとっては斜めから降り注いできた回答であって、まさかここで《ヒロイン》なんて存在が出てくるとは思わなかったのだ。


「ヒーローは自分のことを自分でヒーローなんて言わないだろ。そういう意味ではクゥリの言ってることって、間違いではないと思うんだ」


  クゥリは、自分はヒーローにはなれないと言っていた。けれど考えてみればそれは、ある意味で当たり前のことだ。それにはクゥリのことを評してくれる誰かが必要だ。誰よりも傍で認めてくれる唯一が必要だ。


「ヒロインだけじゃない。その人はきっと周りの人がいるから、《ただの人》から誰かのヒーローになれるんだと思う」




  ──それはまるで、願いのような。




  ねぇ、クロガネ。気付いてる?


  何もその英雄は、クゥリ一人のことを言ったわけじゃないんだよ。


  クロガネのことだって、入ってるんだよ。




  ──じゃあ、クロガネはヒーローだね。




  きっと、いや、絶対に本人はそのつもりもないし自覚もないのだろう。だから心の内に留めておくだけで、彼には言わないけれど。


  自分がヒロインだなんて、烏滸がましい。でも、そうだとしても。彼を見守る《唯一》は、まだ手放してやらないつもりだ。


「……それじゃあ、ヒーローって、たくさんいるかもしれないね」

「そうだといいけどなぁ」

「もう、何ですぐ自信失くしちゃうの!」




  私の隣のヒーローは、まだまだ一人前には程遠い。


  そのヒーローの隣には、いつだってそんな彼を決して見放さないヒロインがいるのだ。





 ~Heroes & Heroines~/End

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