ホッ〇ーアンドしんどい労務 ~下戸な社畜のドイツでビール作り~
短いですがどうか楽しんで読んで下さい
「転勤、ですか?」
突然の事に俺は呆然とした、上司の話す内容は余りにも急な事で俺はすぐには理解出来なかった。
「あぁ、君にはドイツに行ってもらう」
俺はふと同僚がウチの会社もとうとう海外進出かぁ、と感慨深そうに言っていたのを思い出す。
そんな急に言われても困ります!
そうやって上司に啖呵を切ることが出来たらどんなによかった事か。
「了解しました、いつから移動でしょうか?」
すると上司はなにやら思案顔になり少し勿体付けて言った。
「なに、君も急な事で混乱しているだろう。心配しなくてもいいこれは後半年も先の事だ」
随分と余裕があるものである、流石に違和感をもち上司に聞いてみると。
「君にはこれからドイツ語を学んでもらうよ、その他向こうの文化も色々と学んで置くように。大丈夫、それなりに私もホローするさ」
上司に、意見出来る筈もなく俺のドイツ転勤は決定した。
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それから半年俺はドイツ語を死ぬ気で学んだ、そして遂にドイツへ向かう事になった。
空港で旅客機に乗り直行便で約12時間掛け乗り継ぎをドイツのフランクフルト国際空港に着いた。
当たり前だが周りは外国人だらけだ。イヤ、この場合彼等にとって俺が外国人なのだろう。
自意識過剰だろうか、矢鱈と見られている気がする。
「確か迎えを寄越すっていっていたよな」
小声でぽつりと呟いてき少しだけ居心地が悪い気がする。
そこでキョロキョロと辺りを見回しているとプラチナブロンドの青年が話しかけてきた。
「やぁ!君がザルミヤ君かい?」
どうやらこの青年が話にあった迎えの様だ、よく見ると下手な字で『ようこそ!ドイツえ!!』と書いたプレートを持っている。
「そうです、私がザルミヤです」
死ぬ気で勉強したと言ってもやはりドイツ語は難しい、ヒアリングは何とか出来るのだがやはり話すとなると難しいのである
「ああ、本当に良かった!間違えてていたらとても恥ずかし思いをした事だろう」
青年は大袈裟なポーズで嬉しそうに話した。
「それは良かったですね、それにしても良く私が分かりましたね」
そう言ってあえて興味深そうに聞くと青年はまたもや嬉しそうに話した。
「写真をあらかじめ見ていたのですよ。しかし、写真で見るよりも貴方はとても若く見える!」
「それは有難い、ところで貴方のお名前を伺っていませんでしたね」
青年はハニカミながら言った
「そう言えば名乗って居なかったね!僕はハンス・アベル。気軽にハンスって読んでね!」
相手が名乗ったのならばキチンと名乗り返すのが礼儀だろう。
俺は青年、いやハンスに向き直り姿勢を正して言った。
「ではハンス、私は猿宮 直人、ナオトと読んで欲しい」
ハンスは右手を差し出してきた。流石にその意味位は分かる、恐らく握手であろう。
「あぁ!よろしくナオト」
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶が終わり特に空港ですることもないので、ハンスが用意したという車に移動することになった。
「そういえば渡していなかったね、これはウェルカムドリンクだ」
そう言ってハンスは缶ビールを俺に手渡した、初めて見るはずだが、少しだけ見覚えがある。よく見ると内の会社のビールだった。
ドイツ語で書かれてあるのも理由の一つだが、それ以前に自分の知らない製品だったからだ。どうやらドイツでのみ販売しているらしい。
ホテルでもないのにウェルカムドリンク、しかもビールを渡して来るあたりドイツらしいと思った。
有難いが、しかし俺には飲むことができない。
「申し訳ない、私はお酒を一切飲めないんだ」
ハンスにそう答えると目を見開いた。
「なんだって!君はお酒を作る会社にいてそれなのにお酒を飲めないのかい!?」
その通りである、俺はビールメーカーに勤めながら1歳酒の飲めない下戸だったのだ ホッ〇ーなら飲めるのだが、いやホッ〇ーはお酒ではない。
こんなことでドイツで過ごしていけるのだろうか、そう不安な気持ちが顔に出ていたのだろうかハンス俺を慰めてくれた。
車の中でハンスと話しながら指定の場所へ向かう。
ハンスとの会話はドイツ語の練習になった、話もそれなりに盛り上がりハンスは俺が年上である事に驚いていた。
どうでもいい話だが俺は今年で28である。
そのあと車を何時間か走らせ地方の田舎町に着いた、こんな所に会社があるのか?そんな疑問が湧き出たがフロントガラスの外に映る景色にそんな考えは消え失せた。
そこは黄金の海だった もちろん黄金ではない 麦である しかし一面の麦畑は 黄金と表す他なかった 稲穂の一つ一つが つやつやと 太陽に照らされ 輝いている そしてそれらが風にあおられ 波のように ゆれていた
俺はそれを見て、しばらく言葉が出なかった。
しかし惚けている場合では無い、結局会社らしきものは見当たらない。
気になってハンスに聞いてみるとハンスは一つの建物を指差した、その指先には煉瓦造りの一軒家があった。
指さす先に他に建物があるのではないか、そういった希望は一瞬で打ち砕かれた。
どう見ても少し豪華な家である、間違っても内の会社の支社ではない。
煉瓦造りのそれは見方によってはとても絵になるのではないだろうか、しかしそこが自分の勤め先だと思うと唖然とするほかなかった。
ハンスはどうしようもなく呆然とする俺に向かって
「あれがこれから君の働く場所だよ、ちなみに君の住む家でもある。まぁ、これから仲良くしようじゃないか」
ハンスはいたずらが成功したような顔で言った。
ハンスと共に車をその家の駐車場に停めその家の玄関前まで来た。日本ではあまり見ないドアノッカーをゴンゴンとハンスが二、三回叩く、すると奥からコツコツコツコツと歩いてくる音がする。
ガチャリ、という音がしてドアが開くと、そこにはアッシュブロンドの美しい女性が出てきた。
白人らしい白い肌に青い目、そのサファイアの様な目の縁には長くそれでいて金糸のようなまつ毛が縁取られている。
まるで神が黄金比を与えたようなその美しさに俺は息を飲んだ。
神秘的なその女性はハンスに向かって話し掛ける。
「あら兄さんおかえりなさい、もしかしてだけどその横にいる少年の様な人が話に行ったザルミヤさんですか?」
ハンスはここ数時間で見慣れたハニカミ顔で答える。
「そうだよハンナ、そしてザルミヤは若く見えるが僕よ 年上なんだそうだ」
すると女性、ハンナはその美しいかんばせを破綻させ取りきわ驚いた顔をし、そして恥ずかしそうな表情になった。
「まあ、そうだったのね。そうだと思ったら そうとしか思えないもの その ごめんなさい ザルミヤさん。私はハンナ あなたと今日からここで働きそして一緒に住む者よ」
俺は少しだけ言葉に詰まりながらなんとか取り繕いハンナに挨拶をした
「これからよろしくお願いします ドイツで働くことには不安があった しかし 貴女と働けるのであれば 俺はまだまだ頑張れそうな気がします」
俺はこの美しい金色達の記憶を一生忘れないだろう。そう強く思った。
お読みいただきありがとうございました