2:絶望と静寂
「おか・・・さ、ん」
ゆっくりと口を開いて、今までを思い出しながらお母さんを呼ぶ。
一文字一文字、ゆっくりと発していく。
お母さんは呆れたように、私をベットから引きずり下ろした。
そして、私の部屋のドアを指差して何か言う。
どうせ、顔洗ってきなさい、とかそんなことを言っているんだと思った。
(・・・どうしよう・・・!)
私は慌てて自分の机に向かって走り、適当なメモ帳を引きちぎるように破った。
机の上に転がっていたペンを手に取り、その紙に殴るように
「みみがきこえない」
と、書いてお母さんに向けた。
お母さんは目を大きく見開いてその紙を見ていた。
やがて、お母さんは大きく息を吐いた。
私のおでこを軽く小突いて、薄っすら笑いながら何か言う。
信じてない、とすぐにわかった。
お母さんのその顔を見てると、なんだか切なくなって、ぶわっと涙が溢れた。
膝から、崩れ落ちた。
「ほんと、なの・・・おかー・・・さ、ほんとに・・・きこえ、ない の」
パジャマの袖で、ぐしゃぐしゃに掻きむしるように涙を拭く。
ちゃんと、発音できているのかはわからない。
けど、信じてもらわなきゃ、困る。
まだ、笑っているのかもしれないお母さんの顔を見るのが怖くて、ぎゅっと瞑った目をごしごしと袖で擦る。
両肩を強く掴まれた。
驚いて顔を上げると、顔を真っ赤にして私の肩をがくがくと揺するお母さん。
怒っているような、困っているような顔で、私の目を真っ直ぐ見つめて叫ぶように何かを言っている。
少し、怖かった。
必死の剣幕のお母さんも、それが聞えない自分も。
震えた手で、床に落ちたペンを掴む。
お母さんの手の中の紙をひったくるように取り上げて、裏向けにしてペンと一緒に渡す。
少しの静寂の後、お母さんはがっくりと肩を落としてその場にへたり込んだ。
私は差し出した紙とペンを下げることも無く、ただ呆然としていた。