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Beatitudo Gate  作者: 小木優人
6/7

戦闘

よし決めた。


「アレク。オブフールの森へ行くわよ。」


「ワン!」


アレクは私の決定に何も挟まずに従ってくれた。

オブフールの森へ行く理由は主に3つあった。


1,ベルンドラモンの繁殖期のため


2,山道では最悪数日もの野宿を強いられ、繁殖期以外にも不安要素があるため


3,オブフールの森は夕方にでも抜けられるため、近くにあるアミュエスの街で宿泊と情報収集を行えるため。さらに、山道では行けない街もあり、森を抜ければ他の街にも行けるため


「さ、行こうか。アレク。」


「ワン!」



数十分歩くとオブフールの森の入り口にたどり着いた。

整理された街道が入り口で途切れていた。

オブフールの森に入ると昼なのに先がなかなか見えないほど木と木が重なりあっている。

ただ、少しは光が射し込む場所もあるためそれほど大変ではない。


今はアレクが前を歩いて先導と警戒を行ってくれている。

今はというより、森に入ってすぐに私より前に出て歩き始めた。

確かに、多少分かれ道もあり行き止まりもあるため初めてオブフールの森に入ると迷ったりするだろう。

アレクは慣れているように歩いていく。

だが、アレクは止まった。


暗い森の中ではっきりと見える赤いボールほどの大きさの瞳、それを被っている白い液体からだ

これは…『初雪スライム』、モンスターだ。


腰のカトラスを抜き、構える。

左足を前にして股を開き、剣先は右足を向いている。

だが、戦闘経験どころか剣もまともに持ったこともない。どこかぎこちない。

しかし、初雪スライム程度なら武器さえあれば子どもでも倒せるためアレクはなにもすることなく見守っていた。


距離は10歩ほど。

シャリアはすぐに距離を詰め、初雪スライムを斬る。

が、死なない。

それは液体だけを斬ったからだ。

赤い瞳に見えるものがスライムの核であり、弱点でもある。それを壊すとスライムは死ぬ。

そのことに気づかずさらに4度斬る。


最後の一撃が核に当たった。

すると初雪スライムは弾け死んだ。

核を一刀両断きれいに壊せばその場で溶けるように死ぬが、核の一部にキズをつけると弱点なので死ぬが飛び散るように弾けて死んでしまう。

他のスライムには毒や麻痺を持っているため注意して殺さなければならない。

幸い、初雪スライムは特に何もない。ただ──


「うわぁ…ベトベト。しかもヌルヌルしてキモチわるい。何このモンスター。」


シャリアの身体に初雪スライムの一部が飛び散り、顔や胸の谷間にかかっていた。

アレクは顔をなるべく背けていた。

しばらく経って努力したが、まだ少し残っていた。が、マシになったので先へ進んだ。


何度かまた初雪スライムが出てきた。

先ほどと同じ目に遭うのかと思いながらシャリアはカトラスを抜き斬りかかった。

今度は2回で仕留めた。

しかし、また核をきれいに斬れなかったため弾け死んだ。


「ングッ。ちょっと…。」


今度は顔に直にかかった。

そのまま首まで垂れてくる。

そんな思いをしながらちょくちょく現れる初雪スライムを斬り続けた。


核の部分に攻撃すれば初雪スライムは死ぬと徐々に分かってきた。

それから2体殺した辺りに核をきれいに斬った。

飛び散るスライムから逃げようとしたがそれがなかった。

何秒か呆然として正気に戻る。

きちんと倒せば問題ないと。


何分後かに現れる初雪スライムを倒していく。

最初に比べ、いくらか太刀筋が良くなっていた。

アレクはただ見ていた。


ちなみに、最初は絶対弾け死ぬと思ったアレクは後ろに何歩か下がって退避していた。



「お風呂…入りたいなぁ。」


口癖のように呟いていた。

いまだに身体がベトベトしていた。

疲れもある。初雪スライムを20体は確実に斬った。

これで山道に行っていたら、確実に死んでいただろう。


あと少しで休憩ポイントがあると看板があった。

だが、先ほどからドーンと音がしていた。

目的地に近づくほど大きくなっていた。嫌な予感がする。


拓けた場所に出た。

そこは周りが見えるほど明るい。

そのため、ここで一時休憩も出来る場でもあった。


だが、今は違う。

木が何本か倒されている。

それはきれいに切られていたではなく、折られたという表現が正しいだろう。


それを見つけるのは時間はかからなかった。

倒された木の部分から外の明るさがより射し込んでおり、それはよく見えた。


地面を踏む音が聞こえるほどの巨体だった。

白く長く鋭く太い2本の牙。

体は縦横2メートルは余裕にあり、茶色い毛でコーティングされている。

その鋭い牙で獲物を貫く『スティングボア』がこちらに気づき音を立て近づいてくる。


「っ。戦わないと…。」


即座に抜刀し、構える。

構えながら横に歩く。

スティングボアは見る限り横には弱い。

横を取り、斬る。

しかし、スティングボアもこちらが横へ動いているのに標的を定めるように体の向きを合わせてくる。


ならば、止まる。

あえて突進させてかわし、その隙に斬ろう。

念のため、背後に木がある場所で止まる。

止まったことにより、スティングボアは攻撃に移ろうとしている。そして、そのときはきた。


スティングボアは突進してきた。

思っていたより速い。

そして、怖い。

先ほどのスライムとは大違いな死への緊張感。

避けようと回避行動に移るが、突進は多少ならこちらの動きに合わせて曲がってくる。

予想外。舐めていた。横を取る余裕はない。

横に思いっきり転がった。ただ回避するだけで精一杯だった。


突進したスティングボアはシャリアの横を通りすぎ木に牙が刺さると思ったが、木が大きな音を立て倒れた。

そうだ。先ほどから折れている木が目に入っていたはずだ。


シャリアの甘い想像はことごとく崩れていく。

回避行動を取ったため、立ち上がるのに時間を要した。その間にスティングボアもこちらを振り向きまた突進をしようとする。


2回目の突進がきた。

まだ速さに慣れない。

また回避行動をしようとするが、こちらの動きに合わせてくる。

まずいと思い、今度はカトラスで受け止めた。

しかし、踏ん張ることはできずに身体はどんどん後ろに下がっていく。


このままだと自分が木にぶつかってしまう。

咄嗟に左肩と左足に力を入れ、突進を受け流した。

が、無意識でやったため頭はついていってはくれなかった。受け流した勢いを制御できず、地面に背中からうちつけて身体は2回転した。


地面から身体を起こす。

カトラスを地面に刺し、棒のようにして立ち上がろうとする。

そのとたんに踵に激痛が走る。

昨日の手当てしたキズがスティングボアの突進を踏ん張ろうとしたために悪化してしまったのだろう。

だが、早く立ち上がらないとスティングボアの突進がきてしまう。


スティングボアは振り返った。

対して、シャリアはまだ立ち上がっていなかった。

満身創痍の身体に対して、元気のある狂暴なモンスター。


勝ち目はない。絶体絶命だ。

諦めたくはなかったが、現実を突きつけられる。

気づけば涙が流れていた。

それは死への恐怖ではなく、ちっぽけな自分に対してにだった。


「みんな。ごめんね。約束したばっかりなのに。」


そのとき、シャリアの腰にドン。と何かがぶつかり、それはシャリアの目の前を駆けていった。

アレクだった。口にはグラディウスをくわえていた。


スティングボアはシャリアからアレクへ攻撃対象を移したようで、アレクが円を描くように動き、その動きにスティングボアは合わせようとする。


一瞬アレクは止まった。

そして、スティングボアへ攻撃を先に仕掛ける。

スティングボアも突進を始める。

このままだと真っ正面でぶつかる。

しかし、アレクはぶつかる手前で斜め右に移動し、グラディウスを力強く噛み、相手の勢いと自分の勢いを合わせグラディウスで攻撃した。

スティングボアは出血しながらも突進を続けては木にぶつかる。


すぐにアレクは身体を180度ターンし、突進を終えたスティングボアに向かった。

後ろ向きで弱点を晒しだしている相手に華麗なステップで深手を負わせる。


スティングボアは嫌がった様子で前足を上げながら大きく首を振ってアレクへ体当たりする。

苦し紛れの攻撃は見事に当たってしまい、アレクは宙へ浮く。

しかし、空中で体勢を立て直し地面に着地する。

すぐにまたスティングボアへ走りだす。


スティングボアの動きが少し鈍くなっているがすでにアレクと向き合っている。

アレクは近づきながら左右へ体を動かしフェイントを入れる。そのフェイントにスティングボアは何度も反応する。


やがて、スティングボアの横を取った。だが、横に入られたと気づいた瞬間、また首を振って体当たりをする。

が、そこにはアレクはいない。

スティングボアが首を振っている間に、アレクは近くのスティングボアが折った木を伝って勢いよく跳んだ。


跳んでる最中に前足でグラディウスを横から縦へくわえ直す。

そして、スティングボアの脳天へグラディウスを深く突き立てた。


スティングボアは大きな悲鳴をあげ、よろよろと動くがやがて横に倒れては動かなくなった。

微動たりしない。アレクはそれを確認して突き刺さっているグラディウスを抜いた。


アレクがいなかったら死んでいた。

私はまた助けられた。

いや…あと何度助けられるのか。

なんと私はこんなにも無力なのだろうか。

目の焦点は合わず、しばらく呆然と地面に座り込んでいた。

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