第三話「模擬戦」
次の日の朝。俺は学校の訓練所で木製の剣で素振りをしていた。
「セイッ」
汗がしたたり落ちる。
「ハッ」
風の音がする。
「ヤッ」
声に押されて剣速が上がったような気がした。
もう一度構え直す。
「ハッ」
「ヤッ」
「セィヤッ」
同じ動作を何度も何度も繰り返す。
こういうのは毎日欠かさずすることが大事なんだそうだ。
といっても、昨日のように寝坊をしてしまってはできなくなってしまうので、そこは注意しなくてはいけない。
「おう、やってるな。」
と声をかけてきたのは、千川。今日は俺が先着だぜ。
「くっ、俺の方が遅かったか。時計を読み間違えたな。」
「壊れた目覚まし時計を使ってるのが悪い。そんなことよりも、ささ、模擬戦をしよう。」
模擬戦とは、実戦を想定して戦いをすることだ。大きく三つに分けられる。一つ目は授業で行われるタイム制。時間内に相手を負かすことができるかを勝負する。二つ目は今俺達がやろうとしているエンドレス制。時間無制限で相手に負けを認めさせるか、被弾数が規定値になるまで続ける。三つ目はアクチュアルウォーフェア制。敵を倒すことも可能な実際の武器を使って戦う。アクウォ制の模擬戦は寸止めが絶対条件となっている。
「ルールは被弾数が5になったほうが負けでいいか?」
「ああ、それでいい。」
「剣と銃じゃどっちが勝つかなんて決まっているようなもんだけど、早速やってみるか、ルイス君。」
「始める前から勝利宣言すんな。自信がなくなっちゃうだろ?」
「でも一般的に考えて事実だと思うけどな。」
「まあ確かにそうかもしれないけど、やってみないと分からないぞ。」
「その言葉を言うのは何回目になるんだか。ま、模擬戦は面白いし、早速始めようか。」
俺は訓練剣を構える。千川は得意の銃を構えた。
2人の視線が交錯する。相手はどこからでるか。初動で何をするか、探り合う。
そしてタイマーが10秒前になった。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、
GO!! カウントダウンが0になった瞬間、俺は助走を開始する。対して千川は訓練銃の引き金を引いた。俺は弾を避けられずに頭に2発ヒットする。
捨て身の戦法でなんとか相手の前に立った俺は千川の腹を狙い、右斜めの方向から斬った。これで1ヒット。千川は後方へと下がった。俺はそのとき、足に力をいれ、銃の方向に向かって剣で斬ろうとする。だが相手のほうが早かった。俺が攻撃をするまでの間、バン、バン、バンと撃つ。俺の3発ともヒットし、手を挙げる。俺の敗北だ。
「今回も負けたよ。」
「銃器相手に剣だけじゃ、ちと分が悪いと思うぜ。」
正直、銃の方が勝つというのは分かっていた。俺が千川に買ったことは一度もない。だが俺は剣の可能性を信じている。銃で一回撃つよりも、剣で斬る方が美しい。剣の達人であるならば、どんな武器相手でもいい戦いをすると思う。俺の勝手な妄想かもしれないが。
「・・・まあな。でも俺は剣で強くなりたいんだ。また今度、相手をしてくれ。頼むよ。」
数秒間の沈黙の後、千川が答えた。
「・・・・・・ああ。俺で良ければいつでも相手になるぞ。」