プロローグ「復讐の日常」
バンッ。
字に起こすと短いが、実際にはもう少し長く、そして耳に劈く音。
もう聞き慣れてしまっていた音だ。
だがこの音が何か忘れた訳では無いし、またこの音を聞く度に僅かながら、心の奥底に罪悪感を感じてしまう。
「悪癖だな」
と、隣で呑気に煙草を吹かす白髪混じり男が呟く。
それは私も同感だったので、敢えて反論は差さなかったが、煙草から嫌な臭いを振り撒かられるのは非常に耐え難い。
「ジュン、仕事中に煙草は止めてって言ってるでしょ」
と、言うと、
「いいじゃねーか。どうせすぐ終わるしさ」
と、返して、再び煙草に口を付ける。
ふぅ……ジュンの吐息と共に紫煙が宙に舞う。煙たい嫌いな臭いが鼻腔を擽る。不快だ。
「……それで終わらせてね」
レバーを引いて薬莢を排出させる。
床に薬莢が落ちる乾いた音が響く度、また一つ、命が消えたのだと認識する。
その薬莢一つ一つが、今まで奪って来た魂の数である事を、私は忘れない。
再びレバーを引いて弾を込める。
スコープに目を通し、標的に標準を合わせる。また獲物は捕食者の目線に気付いていない。
「……ふぅ」
と、私は浅く息を付く。
トリガーに指を掛ける。
突如強風が吹き付ける。
しかし、それ位では、私の集中は揺るがない。そう散々と仕込まれた。
ぴたり、と、風が止む。その刹那――
バンッ。
再び聞き慣れた音が響く。
銃口から白い煙が立ち、標的は頭から鮮血を流しその場に倒れ込む。
ピクリとも、動く気配は無い。
また一つ、命を奪った。
あと幾つ奪えば、私の願いは果たされるのだろうか?
あと何度引き金を引けば、この悪夢は終わるのだろうか?
あとどれ位、涙を流せば、この気持ちは晴れるのだろうか?
時々、そう迷う事が幾度ある。
しかし、迷う度に、今は義足に成り果てたこの右脚が、私を元歩んでいた道へと誘う。
いつか、この復讐に終止符が打たれるのを信じて、今日も私は引き金を引く。