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リロード  作者: 黒十二色
第一部:RE ROAD
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Chapter3 人間-1

 目に映る全てが、美しくないような気がして、頭を抱える。

 抱えて支えても少しも軽くはならない。痛みは去らない。現実は残酷に僕にのしかかって、僕の心を壊そうとする。


 信じたい、信じたかった。信じていたのに。





 文化祭から、数日が過ぎた。


 霧野みやこが死ぬわけないと信じた以上、目下の問題は霧野みやこと高島さき。そのどちらを選べばいいのか、その処方。


 時折見せる霧野みやこの苦しげな表情は、まだ僕に不安を与える。


 高島さきは相変わらず元気で、僕を安心させるけれど、時折見せる僕への好意が、僕を不安定にさせているかもしれない。


 学園祭が終わってからというもの、僕ら五人は更に近づいて、一緒に昼食をとる仲にまでなっていた。


 なお、僕は少し気になったことを本人に訊いたのだが、

「高島さん、女子のグループのほうはいいの?」


「え? グループって何?」

 そんなことを言っていた。元々それほど仲良くもなかったんだろうか。そうは見えなかったけど。


 他に、こんなこともあった。


 昨日の帰り道、前列を新渡戸とヒロアキ、二列目を僕と高島さん、最後尾に霧野さんの隊列で歩いているとき、不意に高島さんが、

「加賀君加賀君」

 とかいって話しかけてきた。


「なんだい高島さん高島さん」


「加賀君と霧野さんって……何か、あるの?」

 ストレートで踏み込んだ質問だと思った。何かあるかと言われて、具体的に回答できるだけの準備は僕の中で全くと言っていいほど整っていなかった。


 だから、濁すように、


「何って……別に……」


「無い、とは言わないんだね」


 高島さきは俯いて言うと、くるくる回りながら最後尾へ向かい、霧野さんに「いえーい霧野さん霧野さーん」とかって元気に話しかけていた。


 そんな少しずつそれぞれの壁が崩壊していく感じが、怖くもあったけど、それ以上に、うれしかったと思う。


 特に霧野みやこ。彼女は少しずつ皆と話すようになってきている。ぎこちない会話でも会話は会話だ。それを僕はきっと、とてもうれしいと感じている。話すようになっても彼女の美しさは翳らない。


 ところで、霧野みやこは、冬が似合うと思う。雪のような白い肌、煌く黒髪。漆黒の瞳。雪と共に冬に融けてしまいそうだと思った。


 そう考えると高島さきは春か。冬は冬で雪をバックに彼女自体輝くだろうが、やはり春のような娘だ。春に融け込み、ふらふらどこかへ飛んで行ってしまいそうな……って、悪口かな、これ。


 もうすぐ冬が来る、その次に春が来る。何の呪文を唱えなくても、季節は巡る。


  ★


 ある日の昼休み。


 最近、食事の中で一番楽しみなのが昼食である。やはり皆で食べるというのが、何というか、素敵だと思う。女子と一緒にってのがさらに格別な要素だ。


 僕の机付近に集まって……と、そういえば、高島さん以外席が近いんだな。席離れているのが霧野みやこだったら、きっと今頃一緒に昼ごはんなんて、ありえなかっただろう。


 高島さきが言う。

「ねぇ、みやこちゃんは、お昼食べないの?」


「…………忘れた」


「おいおい、今日もかよ。ちゃんと食べないと大きくなんないぞ、特に胸とか胸とか」

 そう言ったのは新渡戸。確かに霧野みやこは胸の発育がイマイチではある。


「最っ低」

 吐き捨てるように。


「なんだと高島! いいか、おっぱいの嫌いな男子はいないんだぞ!」


 すると、これまた胸のちっちゃな高島さんは、

「そんなことないもん、ね! 加賀くん!」


「何で僕に振る!?」


 そこでヒロアキがまとめにかかり、

「大きいのは大きいのでいいけど、小さいのは小さいのでいいと思うよ」


 女なら何だっていいのかこいつは。


 ちなみに霧野みやこはこの時、自分の胸を掴んでたりしていた。揉んだりしていた。興味深そうに。


 何してんだ……。


 それをなにやら怖い目つきで見る新渡戸。チラと目が合って僕の視線に気付いた新渡戸は言った。


「霧野……俺が、揉んでやろうか?」


「この、変態ぃ!」

 ごす。高島さきの振り上げた国語の教科書の角が新渡戸の脳天を直撃した。

 なんという破壊力。一瞬にしてカエルのように床に潰れた。


「いってぇ……冗談だよ冗談……」


「冗談でもやめとけ。ひどいセクハラだぞ」


 僕は新渡戸の腕を掴んで立たせながらなだめるように言う。

「だが加賀、お前も思わないか? ないよりはあったほうがいいと! 小が大を兼ねることはないだろう?」

 大げさな身振りで、憤りを表現してきた。心の底から気持ち悪い。


「答える義務はないな」


「加賀君加賀君……」


「ん?」

 僕が高島さんの方を見た時、彼女はわざとらしさ全開の上目遣いで訊いてきた。


「やっぱり胸あるほうが好き?」

 何で僕の性的嗜好をこんな公衆の面前で晒さなきゃいけない!


 僕としてはヒロアキの意見に乗っかりたいところで、小さいのは小さいなりに、大きいのは大きいなりに、いいところがあると思う。


 でも……ここで言うべきは、


「胸で人を判断するのは良くない、よ」

 正論を返してみた。


「だ、だよねぇー」

 納得してくれたらしい。


 そして僕や新渡戸たちが漫才じみたことやっているうちに、霧野みやこはヒロアキからパンを受け取って食べていた。


「……おいしい」

 なによりだ。僕が作ったわけじゃないけどね。


 やっぱりね、数日間近くで過ごして感じたことがある。


 どっちか一人を選ぶなんてできない。できるはずがない。胸サイズの話じゃないけど、霧野みやこには霧野みやこの、高島さきには高島さきの好きなところがある。


 高島さきは一緒にいるととても楽しい。愛らしい。感情を表現することに迷いがなくて、そういうところは尊敬すらしている。ちょっと変人じみたところがあるけど、楽しいから許す。まぁ胸はないが。


 霧野みやこはあの倒れかけた時の事もあるし放っておけない。どことなく危うい気がしてきて、彼女を守る力があったらなって思う。そして何よりも容姿端麗。見た目で異性を選ぶのかって言われたら、耳を塞いでしまうけれど、理屈じゃない気もしているから、見た目で選んでいるわけではきっとない。まぁ胸はないし。


 どうして彼女らが二人の人間でいるんだろうね。二人が合体したり、二人で一人とかだったら、こんなに悩まなくて済んだだろうに。


 右側には高島さき、左側には霧野みやこ。向かいに座っているヒロアキが、ニヤニヤ僕の顔を見ている。


 両手に花だな、とか言い出しそうである。


「加賀、お前、なんかあれだな。両手に花だな」

 新渡戸が言ったか。


「え? はな?」

 高島さんが小首を傾げる。


「いやいやいや、何でもないよ、な! 加賀!」


「何? もう」

 高島さんが、はぐらかされたっぽいことに対して不満そうにしていた。話をかえよう。


「あれ? そういや新渡戸、新作パンはどうした?」

 今日のパン達もいつもと変わらなかった。店で売っているような、パン達。この間、新作パンの開発をしていると言っていたから、楽しみにしてるんだが。


「え? あ、あー……親父のやつ失敗しやがったみたいでさ」


「へぇ、珍しいな。久しぶりに新しいのって聞いたから期待してんだけど」

 本当に残念だ。


「なんか、これは店に出せる味じゃねぇとかって叫んでたよ」

 よっぽど酷い失敗したんだな。パンの形をしていない、液状とかか?


 新渡戸父、腕が鈍ったか。あるいはようやく良心に目覚めたか。


 以前は失敗作でも平気で僕らに味見させるため持って来させてたくらいだからな。一番ひどかったのは、薬味パンとかいうやつか。体に良さそうな名称だったんで期待したのだが、実態は、わさびにからし、七味に一味、生姜にみょうが。しそにねぎ。その他色々エトセトラ。全部を混ぜて焼いたパンだった。味とかそういう次元じゃなかったな。あれには悪意すら感じたよ。パンという文化を冒涜していた。


「まあ新作の実験台にはいつでもなるって、親父さんに伝えといてくれよ」

 心の広い僕はそう言ってやった。


「あ、あぁ」


「ねぇねぇ新渡戸くんの家ってパン屋さんなの?」


 新渡戸は高島さんの問いに自嘲気味に答える。

「そう、駅近くの怪しげな路地裏で商売してるの」


 すると今度はヒロアキが霧野みやこに問う。

「こんなうまいパンが売れないってんだから、都会はおそろしいよな! なぁ、霧野」


 彼女はパンを小さく齧りつつ、小さく頷いた。


 数日前からヒロアキが妙に霧野に話しかけてるのを見て、少し、苛立つ。


 って、あれ、これ、もしかして嫉妬ってやつか。いや、嘘だろ。なんか嫌だ。みっともない。心の中で頭を抱えて、その感情を恥じた。


「でも、そんなおいしいパン作れるなら、なんでもっと売れそうな場所でやらないわけ?」

 高島さんのいい質問。そこは確かに気になるところ。


「めんどくさいらしい」と新渡戸が言う。実にシンプルな答えだ。


「それはまぁ、なんていうか新渡戸君の家の人らしいね」


「失礼だぞ高島ぁ!」


「落ち着け落ち着け。暴れるとまた腹減るぞ」

 暴れそうな新渡戸をなだめて落ち着かせようとする。


 こんなやり取りにも、ここ数日でだんだん慣れてきて、このパターンだとまたヒロアキが霧野に……。

「霧野さん、はいお茶」


「…………あ、りがとう……」


 あーなんか腹立つ!





 こんな風に、楽しい日々が日常になっていって欲しかった。


 でもそんな僕の願望は、天に届かなかったのか、天が叶えてくれなかったのか、天なんてないのか。とにかく、急転した。急転は急転を生み、時が過ぎるまで回り続ける。


 急転?


 そうでもないのかもしれない。


 回転式ピストルの弾倉が回るほどのスピードだったかもしれない。ただ、その回転にその音に、兆候に気付くことができなかっただけかもしれない。


 まぁとにかく、なんていうかな。


 ロシアンルーレットに巻き込まれてしまったような展開の引き金は、引かれてしまったのだった。引いたのは……誰だったんだろうか……?




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