眠り魔女
視点:加賀遊規→天の声
☆
眠り魔女
《昔々のあるところ、普通の少年と姫が暮らしておりました。姫は少年に恋をして、少年も姫に恋をしました。しかし当然、二人の結婚、いいや、二人の恋は許されることはありませんでした。姫には許婚がいたのです。自分のモノになるはずの姫がどこの馬の骨とも知れぬ少年と会っていたことを知った王子は、部下に命じて姫を、姫を……助け出そうとしたのです》
ナレーション。さっそく俺の出番だった。その後、ゆっくりと幕が上がる。
はじめは暗いまま。人のシルエットが辛うじて見える程度の微かな舞台。
徐々に光が強くなると共にまばらな拍手。
ぼろぼろの服を着た少年と可愛らしい姫が動き出す。
手を繋いで、何かに追われるように駆ける。
「はぁ、はぁ、大丈夫? 怪我はない?」
苦しそうに喘ぎながら姫は言った。
すると少年セバスチャンは、
「姫こそ……大丈夫? にしてもクソ。あいつら……」
悔しそうに、そう言った。
「あいつら人を、人の命を何とも思っていないのよ! だからあんな兵隊のいるところになんて嫁ぎたくないのに!」
「姫……僕と遠くへ逃げないか? 僕はずっと君を連れて逃げたかった」
「セバスチャン! その言葉を、待っていたの!」
姫はセバスチャンに抱きついた。ちなみに、抱きつくなんて予定にはない。
セバスチャンと姫は幼馴染同士。互いに愛し合ってもいた。けれど身分が違いすぎる恋は、すぐに愛し合う二人を引き裂こうとする。姫は国のために異国へ嫁ぐことが決定してしまった。姫は迷いの末、馬車に乗って異国へ嫁ぐ道の途中、従者であるセバスチャンを連れて駆け逃げたのだ。
そんな時、ダァンと大きな銃声が響いた。とてもよく響いた。姫と少年は戸惑ったように首をグルグルと振り回して辺りを見渡す。
姫の目の前には、三人の男の兵士。そのうちの一人、兵士Aが言った。
「やっと追いついたぞ。さ、姫、助けに来ました。王子がお待ちです」
「あ…………」
姫は声を漏らすしかない。
「おい小僧、命が惜しければ姫を放すんだ」と兵士B。
セバスチャンは大きな身振りと共に、
「嫌だ! お前らなんかに姫を渡すものか!」
叫び、姫の手をしっかりと握った。
すると兵士Cが剣を構え、声を裏返しながら、
「そうか、じゃあ死んでもらうしかないナァ!」
その時姫は気丈な叫びを上げる。
「待って! 彼を殺すことは許しません!」
「ぇーでもナァ、姫を攫おうとしている逆賊なんだろォ?」と兵士C。
「いいえ! 彼は何の関係もありません!」
「ひ、姫!?」
セバスチャンは慌てたように叫んだ。
「ごめん、セバスチャン。あたし、行くね」
「そんな……」
「兵士さん、貴方達について行くわ。でも彼には手を出さないで!」
姫は力強く言って、異国の兵士たちに捕らえられてしまった。
「フヘヘヘ、最初からそうやって素直にすればよかったものを。さぁ、来るんだ!」
兵士Aは姫の腕を掴んで乱暴に引っ張った。
「姫! 姫ぇええええええええ! げほげほ……」
むせていた。
連れて行かれる姫。姫は何度も何度も少年の方を振り返る。
少年は手を伸ばす。届かない手を。
そして舞台の袖へと消えていき、それと同時に暗転した。
背景は森から城へと素早く変えられる。布に絵が描いてある背景。演劇部から苦労して借りてきた背景。それを幕のように上から垂らす。
明るくなるとそこには王子と思われる格好をした男が立っていた。
「あー退屈だな~」
王子はソファに飛び込むと、その上で寝転がり、退屈そうに寛いでいた。
と、そこへ袖から側近が姿を現す。
「王子」
「なんだよ側近」
「王子の探していた姫を助け出したとの報告が入りました」
側近の報告に、王子は勢いよく身を起こし、
「おおおおお、でかした! でかしたぞ! さ、はやくここに連れて来い。はやく!」
「もう少々お待ちください。まだ城に着いてはおりませんので」
「それでも側近か! さっさとしろよ!」
横柄な態度の王子は傍にあったクッションを側近に投げつけて、
「あ~はやくこないかな~」
と言ってソファに寝転がったところでまた暗転した。
黒子が張り切って動いている。と、その時、小道具を運ぶ黒子が一人転んだ。小さな笑いが発動した。
ナレーション。
《愛する姫を攫われたセバスチャン。セバスチャンはあてもなく森を歩いた。姫、姫と連呼しながら……。返事など、あるはずもないのに……》
照明が復活。半分だけ森の背景に戻っていた。照明は左の、森側半分のみに当てられる。
姫の生まれた国と異国とを仕切る森、そこに黒衣の女が立っていた。そこへ舞台右側からセバスチャンが歩いてくる。
「姫……姫……」
何度も姫を呼びながら。と、その時だった。
背の高い黒衣の魔女が現れ、抑揚の無い声で言った。
「…………彼女を救いたい……ですか?」
あまり大きな声ではなかったので、少ない観客も、物音を立てないようにして、集中して聞こうとしていたようだ。
「あ、あなたは……?」
セバスチャンは敵かと思って身構える。
「……私は悪い魔女。あなたが本当に彼女を取り戻したいと思うのなら、わ、たしの言うことを聞きなさい……です」
歯切れ悪く、自信なさげに、魔女は言った。
「彼女は! 姫は今どこに!?」
「……彼女は今、異国の城に入ろうとしている……です」
「城だね! ありがとう!」
「待ちなさい」
魔女がセバスチャンを呼び止めた。
「え?」
「姫にあなたにしか解けない呪いをかける。あの男の城にも呪いをかける。私は悪い魔女。全てが終わったらもう一度私のところに来るのです」
「わかったよ」
「待ちなさい」
また、呼び止めた。
「まだ何かあるのかよ!」
急ぎたいセバスチャンは、焦った声で叫ぶ。
「約束。必ずもう一度ここに来ると」
「わかった。約束だ。死んでも守る」
力強い声でそう言うと、セバスチャンは駆け出し、そのまま舞台袖へと消える。
魔女は「ふぅ」とため息を吐くと天を見上げた。
そして今度は城側に光が当たる。既にソファに座ってスタンバイしていた王子と、その横に立つ側近。
「王子、姫を連れて参りました」
側近は言って、王子に頭を下げた。
「通せ」
「はっ」
側近の合図で、袖から兵士Dに連れられて姫が出てくる。
「…………」
姫は黙っていたが、目から光を失わせることなく、微かな希望を全力で信じているような、そんな様子だった。
「お連れいたしました」
兵士Dは、姫を王子に差し出すと、王子の前で跪き、忠誠を誓うポーズをとった。
「ご苦労。下がってよいぞ」
「はっ」
兵士と側近は揃った返事をして引っ込んだ。
そして、いかにもクズっぽい王子がいやらしい口調で、
「久しぶりだねぃ姫様~」
「そうね、会いたくもなかったけどね」
ツンとした態度の姫。
姫と王子は面識があった。王子は昔から姫のことが好きで手に入れたいモノだったが、姫としては、王子なんて眼中になかった。
「相変わらず厳しいねぇ。そこも可愛いんだけどね」
「近寄らないで! 汚らわしい!」
「近寄らないと何にもできないよ~」
「何もしないで! あたしのことが好きなら!」
姫は、王子の自分に対する恋心を利用して身を守ろうとする。
「好きだよぉ。好きだから~」
しかし男というものは、何もせずにはいられないものなのだ。
「いーやぁー」
少々わざとらしい悲鳴を上げつつ、逃げる姫。姫を追い掛け回す王子。逃げる逃げる姫。
そして姫が何も無いところで派手に躓く!
「きゃぁ!」
悲鳴を上げて、倒れこむ。
「さぁ観念するのだぁ」
「やめてぇええええええ」
もはや悲鳴。
「よいではないか、よいではないかーぁ!」
姫、大ピンチ。
そこで舞台のもう半分にもライトが当たる。
ずっと座っていた魔女はゆっくりと両手を広げて立ち上がると
「のろーいのろーい、ねむるのろーい」
と、何だか陳腐な呪文のようなものを唱えた。もっと他に呪文思いつかなかったんだろうか。いや、わかりやすくていいんだが。
「う?」
王子は目の前が揺らめくような不思議な感覚に襲われて声を漏らすと、パリーンとガラスが割れるような音が鳴って、倒れた。
姫はキョロキョロと辺りを見渡した後、胸につけたブローチを手にとって、いかにも意味ありげにこう言った。
「おかあさまからもらった呪い返しの鏡が! 割れている……どうして……」
呪い返しらしい。
姫は突如として動かなくなった王子の体を指先でつんつんと突いてみたが反応がない。
「眠っているわ……そうだ、逃げなきゃ!」
姫は王子を放って長いスカートを掴み、バタバタと舞台の袖に消えた。
一方、森にいる魔女は、
「呪い……返し……? ばかな…………あぁ少年よ、急ぎなさい。もはや彼女を守る者は、そなただけなのだから」
と呟きながら倒れてしまった。
そして暗転、する前に魔女が立った!
まだ立っちゃいけなかった。暗くなってから立って袖に消えるはずだった!
まぁ、多少のアクシデントはつきもの。問題は、それをいかにカバーするか、ということなのだ。これは、カバー不能なミスだけども、まぁ……まぁ……ね。
気を取り直して暗転。もう一度黒子のターン。ソファを運ぶのが大変そうだった。
今度は全体城の背景へ。
明かりが点く。眠った兵士たちが転がっている。袖から姫が登場。
「……どういうこと、みんな眠っている。この鏡が割れたことと関係あるのかしら」
姫はブローチを手の中で転がしながら言って、舞台を駆け抜け反対側の袖に消える。そして、また最初に出てきた袖から再登場。と、そこへ――
「姫! 無事か!」
セバスチャンが反対側から走って現れた。
「セバスチャン!!」
彼は姫の前で立ち止まり、
「あぁ! よかった! あの変態王子に何も変なことされていないよね!」
「ええ、ギリギリだったけど! あぁセバスチャン! 信じてた! 来てくれるって!」
「当たり前じゃないか! 君を守るためなら地獄の釜の底にだって行くし魔女に魂を売ったりだってするさ!」
「セバスチャン!」
ギュッと強くセバスチャンを抱きしめる姫。ちなみに抱きしめるのは予定にない。抱き合ったまま、息荒く、うわずったような声で姫は言う。
「結婚しましょう、セバスチャン。お父様もお母様もあたしが説得してみせるわ!」
「ありがとう、姫。そうだ、結婚しよう。誰が何と言おうと、僕が一番、高島さんを愛しているんだから!」
「え? え? な……」
視線を泳がせ、慌てる姫。
高島さんを愛してるんだから、なんて言うからだ。
ここは高島じゃなくて「姫を愛してる」が正しい。
「……さぁ、はやくここを出よう」
しかし、セバスチャンは自分のミスに気付くことなくそう言って、姫の手を握る。
「う、うん」
姫はひどく赤面していた。
さて、背景が変わり、またしても森へ。黒い帽子に黒い服。自称悪い魔女が倒れていた。
袖から出てきた姫とセバスチャンは顔が非常に赤かった。どうやら自分のうっかり高島さん発言に気付いたらしい。
「セバスチャン、あれは!?」
姫は驚きに満ちた声を発した。
「ま……魔女さん! どうして」
セバスチャンも同じように驚きの声を出す。
「魔女?」
姫は、セバスチャンを鋭い視線で射抜いた。
「そうだ、ひ、姫」
と、その時、「高島じゃないのかー」などという観客席からの声。
「う、うるさい。姫……えっと……えと……」
姫がセバスチャンになにやら小声で言った。たぶん、台詞が吹っ飛んだんだと思う。
「ああ姫、体は何ともないのかい?」
姫の機転で持ち直した。
「どうもしないけど、どうしたの?」
「実はこの魔女さんが姫に対して呪いを、僕にしか解けない呪いをかけたはずなんだ」
「なんですって!」
オーバーなくらいに大きな動きで、憤りを表現していた。
「ワラにもすがる思いだったんだ……すまない」
「そう……あ!」姫は胸のブローチに手を置きながら、「それじゃあこのお母様からもらった呪い返しの鏡が割れたのは……」
「呪い返しだって? じゃあこの魔女さんは自らの呪いを身に受けて……」
「そうとしか考えられないわ!」
「…………」
しばらく無言の時間があって、沈黙を破ったのは、姫だった。
「呪いを解く方法は?」
姫の問いに、セバスチャンは頭を振った。
「わからない。聞いていないんだ」
「そう……」
「どうしたらいい?」
「連れて帰りましょう。この世界に悪い人はいないのよ。あの王子だって最初からあんな暴君だったわけじゃないはずだし、この魔女さんだってきっと貴方に協力してくれたからこうなっているのよ。このままここに放置していたら死んでいってしまうわ。結果的にあたしはたぶんこの魔女に助けられたのだから、こんどはあたしが助けなくちゃ! 姫としてのプライドも持っているしね!」
長い台詞を言い終えて姫は魔女に近づき、魔女のカラダに触れた瞬間、
「きゃぁ!」
派手に吹っ飛んだ。
「姫!」
駆け寄るセバスチャン。
姫は顔を歪ませつつ体を起こしながら、
「うっ、いたたた……」
「そうか、僕にしか解けない呪い……つまり、僕しか彼女に触れられないんだ!」
「なるほど、ね」
苦しそうにしながらも、立ち上がる姫。
セバスチャンは魔女をゆっくりと担ぎ上げると、いかにも重そうな感じが伝わってくる感じで、ガニマタで舞台袖へと消えた。
背景は城へと切り替わる。城と森の二種類しか借りられなかったのだった。だがそれで十分である。
ナレーションの出番。
《城に戻った姫は、父と母。王と王女を説得して、平凡な少年セバスチャンと結ばれた。やがて病により王が息絶え、女王も後を追って自殺した。そこに謎はなく、ただ不幸が重なっただけの出来事だったのだが、眠ったままの黒衣の女が来たことが原因だと城内では噂された。姫と少年、二人が結ばれてから五年。姫が女王になるその前夜。黒衣の女、魔女は今……》
「美しい……」
セバスチャンは、感嘆の声を上げた。
赤いバラ、に見立てた造花、を敷き詰めたベッドに黒衣の魔女が横たわっていた。
そのすぐ手前で王子のような格好に着替えたセバスチャンが観客に背を向けて恍惚として立つ。
「本当はわかっている! 口づければすぐにでも君が目をさますとね! 私にしか解けない魔法とはそういうことであると! 本当は、本当は最初からわかっていた! でも! だが! しかし! おお、神よ! 何故人の世はこんなにも不公平だろう! 君は美しすぎたんだ!」
セバスチャンは虚空に向かって叫びを続ける。
「美しさは人を狂わせる! この五年。君は変わらぬ姿でここにいる! 永遠に目覚めないかもしれない? それでもいい! 美しい君を、傍に置いておけるのならば!」
ガシャン、と食器が落ちる音がした。
セバスチャンは、「はっ」と気付いた声を上げて、後、おそるおそる振り返る。
「…………っ」
そこにいたのは姫だった。
「姫! ここには入ってくるなと……」
「ごめん……なさい……一緒にお茶を……」
「聞いて、いたのか?」
セバスチャンの問いに、姫は大きく頷いた。
セバスチャンは両手を振り回したり広げたり激しい身振りを見せながら、
「聞いた通りだ! 私に君を愛する資格はもはや、無い。魔女に魂を囚われているのだよ。軽蔑してくれていい。望んで君と結ばれたはずなのに、こんな……」
開き直った。
姫は言う。
「一度だけ許すわ……口づけを……」
「それはできない」
「どうして!」
「どうしてもだ!」
「何でよ……何で!?」
「仮に彼女が私の口づけによって目覚めたとしよう、取引をした私の魂が奪われてしまうかも知れない。それでもいいと?」
「魂なんて! もう奪われてしまってるじゃない! あたしの方なんて、ちっとも向いてくれていないじゃない!」
「姫、もう眠ろう。皆もう寝てしまっている。明日は大事な日だろう? 君が、この国の女王になる――」
「何よ! そんなもの! あたしは! セバスチャン! 貴方のほうが……っ!」
そう言うと姫は涙を拭いながら駆け出した。セバスチャンもそれを追いかけて二人は舞台の袖に消えた。
照明が赤い色の光に変わり、メラメラと炎の燃えるような音が鳴った。
舞台上には、花に囲まれて眠る魔女。
「………………」
暗転。
背景は森へ。明かりが戻ったとき、何も無かった。ベッドも魔女ごと黒子が運んだ。
姫は袖から走って出てくると息荒くうずくまった。
「はぁ、はぁ、はぁ。……う……っく……あ、あたしは、なんてことを……」
追いかけるセバスチャンも袖から出てきて、姫に駆け寄る。
「姫……」
「もう、あたしはもう、姫なんかじゃないわ……っ! ただの……ただの……っ!」
「やっぱり、君が?」
「そうよ、お城に火を点けたのはあたし! だって! だって! そうでもしないとあの魔女は死なないでしょ! 全てを焼かないと! 貴方が……戻って来ない気がして……」
セバスチャンは寂しそうな瞳を彼女に向ける。
「どうかしてたのよ、あたし……でも! もう戻れないのよ! もう! あたしは! あたしも! ここでぇ! っく!」
姫は懐に抱いていた小さな太刀を自分の腹に突き立てようと振りかぶった。
「姫ぇぇ!!」
派手な斬撃音が鳴って姫の太刀が刺さった場所は……セバスチャンの腕だった。姫をかばったのだ。血のりが飛び散る。
「セ、セバスチャン!」
「ぅ……姫ぇ……」
「どうして……」
「すまなかった。君をそこまで追い込んでしまうなんて、思わなかった」
「あたしは……死ぬべき……な……のに……」
姫は涙を流し始めた。ちなみに涙を流すのは予定にないのでアドリブである。練習でも一度も泣いたことなんて一度も無かったのだが、なんという演技派。
「姫! 君を許そう! 他の誰が君を許さないとしても、僕は君を許そう! だから――」
「ぅ……くっ……うん……」
嗚咽交じりの弱々しい声。小さな頷き。
「逃げよう! 遠く、誰も僕らを知る者のいない場所へ! さぁ!」
姫は差し伸べられたセバスチャンの手を掴み立ち上がり、大きく頷いて走り出す。
誰も知る人のいない場所へ。
何やら幸せそうなBGMが流れ、暗転した。
《その後、彼らがどこへ消えたのか、知る者は誰もいなかった。幸せに暮らしたのか、残酷な最期を遂げたのか、それは、ここでは語らないでおこう……。彼女らの暮らした城は灰になるまで燃えてしまった、そしてそこには……》
闇が明けると共にBGMが切れた。
そこには何の背景もなく、ただ地に横たわる魔女の姿があるのみだった。
《目覚めを待つ魔女。永久に来る事のない少年を待ちながら…………》
そして幕がゆっくりと下りた。始まったときより、ほんの少しだけ大きな拍手と共に。
再び幕が上がり、皆が横に並び深く礼をした。拍手が起きる。
目だった大きなミス……はあったけれど全体的にはなんとかまとまっていたと思う。ただ最後の音楽は軽快すぎて合わないよな、ちょっと。
幕が下りる。
これで本当の閉幕。
以上、二年G組の演劇『眠り魔女』
主役、加賀遊規に代わって、天の声がお送りした。