儀式のさなか
儀式は、織手の里で行われた。
織のおばば達は、儀式用の白い長衣に身を包んでいた。
夜の山中、煌々とかがり火が燃えて、その白い長衣を紅く染める。
ナギは他の子供達と一緒に、儀式を見ていた。
おばば達が木にくくりつけた幣を振る下で、ナギの腰より高い位置に頭が来るくらいの大きさの幼児が集められている。
そしてその母親と思われる女達はひときわ離れた場所に追いやられていた。
これから、子供達は親が替わる。
子供達はそれぞれの里の子供になる。
子供達は一様に怯えてすすり泣くものもいた。まずは山の男衆が、子供達の間を回り始める。一人の子供が掬い上げられた。
火の付いたように泣く子供を抱えて、一人下がる、そしてまた一人、子供を掬い上げていく。
山の男衆が終わると次はスナドリヒトの番だった。一人一人子供の顔を見ながら吟味して、子供を掬い上げていく。掬い上げられた子供も、まだその場に残された子供も泣き喚き始めた。
スナドリヒトが終わると、おじじが二人、子供を掬い上げてつれてきた。
子供は、ナギのすぐ横に下ろされた。
こわばった顔で、カタカタと震える子供をナギはその手に抱き寄せた。
ナギが抱き寄せると、子供達はしゃにむにナギの着ている服を掴んでしがみついてきた。
その背中を撫でてやりながら、ナギはおじじを見上げた。
おじじは黙って頷く。だからナギはそういうことなのだと、悟り、しがみつく子供の背中や頭を撫でてやっていた。
織の里の女衆が子供の手をためすがめす見て、一人の子供を選んだ。
織の里では長く細い指をした子供を選ぶ。
長い指で糸を捌く為だ。
子供は、先ほどよりおとなしく泣き叫んだりはしない。
女達がそっと抱き上げて運んでいく。
残った子供は、再び土の女衆が回収していく。
男の子は、山の男衆かスナドリヒトになる。ほぼ例外はない。そのため、残ったのは全員女の子だろう。そしてその子はそのまま土の女衆になるのだ。
子供は選ばれ終えた。しかし、儀式はこれからだ。
ナギの額がちりちりと痛んだ。これから文身を刻み、間違いなく、その里の一員であると印される。
通常一箇所だが、例外はスナドリヒトだ。スナドリヒトの文身は全身に刻まれる。そのため一度では終わらず、何年もかけて少しずつ刻んでいく。
最初は、胸に、目の印を入れる。肌に切れ目を入れて模様を描き、炭や土を摺り込んで消えない印を刻む。
再び、子供達の泣き声や悲鳴が辺りを包んだ。
おじじが刻み石を手にナギを見る。子供を押さえろと目が言っていた。
ナギが、子供の肩を掴む。ナギはこの儀式をやるのは初めてだった。
子供の額にナギと同じ紋が刻まれる。子供は泣きはしなかった。少し呻いただけで。もう一人は、すくんだようにそれを見ていたが、慌てて逃げようとしたその腕をナギが掴んだ。
そして、この子供は盛大に暴れて、ナギの手を焼かせた。
よく考えると、これ残酷描写ですね。おじじが持っているのは握斧です。