儀式が始まる
儀式が近づくと。スナドリヒトの長と、おじじは、何度も話し合いをしているようだった。
どうやら、土の女衆のところで何人かの子供を品定めをして、その子供を誰が取るか、相談しているようだった。
ここにはいない、山の男衆も、もうじき来るらしい。
そうすれば、また話し合いがされるのだろう。
ナギもそうやって選ばれたんだろうと、遠目におじじたちを見ていた。
最初は何もわからなかった。確かに覚えていたはずの母親から引き剥がされて、額に三本の傷がうがたれた。
その痛みだけがナギが理解できたことだった。
たぶん、しばらくは泣いていたと思う。しかし、それも周囲の同じようなそれでいて少し年長の子供と過ごすうち、忘れた。
自分のおかれていた状況がおぼろげながら理解で来たのは、何回目の冬を越したあたりだっただろうか。
朧にかすんだ過去を思い出しながら、ナギは、おじじのいる場所から離れて、自分の寝床にもぐった。
ここ数年、船乗りは選ばれていない。ナギとナミだけだった。
他にもいたけど、事故や病で死んだ。
水は恐ろしい。沈めば死ぬ。
当たり前のことだが、何度もそれを目の当たりにすることがあった。
もうすぐ夏が終わろうとしている。水に入るのが辛くなる時期だ。
秋は、海と同じくらい、土の女衆にこき使われる。
この儀式が終わればもう秋だ。
土の女衆達が、子供をそばにつれて歩いている。
子供は子供だけで遊んでいることが多いが、今日は、何かを感じているのか産みの母の衣の裾にすがるようにしている。
連れて行かれるのは大概男の子なんだよ。
ナギはそういおうかと思った。
しかし、自分は女なのに連れて行かれたことを考えれば、言わないほうがいいと考え直した。
その子供達の中に、赤い髪の子供がいた。
エビスの子だ。
親は子とよく似ているのだろう。だからエビスの子供はすぐにわかる。
髪が赤かったり、肌が白かったり、瞳の色が薄かったりするから。
エビスの子供は随分と生まれている。里の男衆は誰もエビスほど子供を作っていないだろう。
エビスによく似た子供をだけでなく。他に里のほかの子供とそう変わらない子供も同じように女達は連れている。
子供の父親は、その子によって違うようだ。
子供達は皆不安そうだ。おそらく生まれて五度の冬を過ごした位の子供ばかりだ。
なぎは船乗りになってから、たぶん五度以上の冬を過ごしたはずだ。
ならばあの子達は、自分が船乗りに選ばれたときに生まれた子なんだろうかと、ナギは感慨にふけった。