祈りの縄
土の女衆達の何人かが髪を切った。
その髪は檻の女衆のもとに届けられた。女衆達は髪を捧げて祈る。
オルハはそれをぼんやりと見ていた。
「何のために髪を捧げるの」
毎年のように見ていた光景だが、その意味を考えたことはなかった。
「命をつなぐ綱を編むために髪を捧げている」
お婆の一人がそう言った。
女衆達は切り離した髪を恭しくお婆たちにさし出す。
そしてお婆たちはその髪に清めの水をかけ。恭しく受け取る。そして真っ白な布に髪を置きその髪はオルハに渡された。
「お前が綱を編め」
渡された髪はずっしりと重かった。
「誰の命をつなぎとめるのですか」
「この場合、ナギだな」
一人の女衆が、深々と頭を下げる。
「ナギは私が産んだ子です」
髪を切り、あらわになった首筋しかオルハの眼には映らない。労働に寄って盛り上がった筋肉の付いた肩。土の女衆のがっちりとした体つきをぼんやりと見る。
「どうか、ナギの。ために」
オルハは声を出さずに呟いた。ナギと。
船の支度が始まる。
山の木地師の仕事が終われば、旅人とスナドリヒトの仕事になる。
中央に大きな人の乗る船、そして両脇に荷と水を入れる船を縄でつなぎとめる。
ナギは繋ぎとめるための木を支えていた。
今日のところは大まかに止めるだけだが、それでも気の位置は慎重に何度も肘を当てて長さを測り慎重に場所を決めていく。
「ここを間違えたら命取りだ、ナギ、お前も覚えておけ、お前の命がかかっているんだぞ」
イサナに言われて、舳先からどれくらいに丸太を置くのか自分の肘で確かめようとしてみる。
ナギの肘はイサナより掌一つ分くらい小さい。
イサナの肘でいくつ分なら自分の肘でどれくらいだろう。
そんなことを考えていると、おじじに軽く小突かれた。
「船の大きさは船によって違う。この船の場所はあれだが、別の船ならまた別の場所になる。だから肘の数を数えても無駄だ」
そう言われて、ナギは考え込む。
「船の大きさで大体三等分したあたりかな、かといって確実には言えないが」
言われてもナギは混乱するばかりだ。
「こればっかりは経験だよ」
「何度も船を操らねば身につかん」
そうスナドリヒト達は言う。
ナギはそれでも船と両脇についた子船を見比べる。
「ナギ、船とわき船の大きさでも位置は変わるぞ、まあ、わき船は代替真ん中につけるのが当たり前だがな」
おじじの言葉になぎはまた頭を抱えた。新しく覚えることが増えて、途方に暮れる。
船を造るのにかかわるのもこれが初めてなのに。
サザとミギワが遠くから見ていた。
二人は近寄ることすら許されていなかったから。
あと少しというところで気を抜いてしまいました、年内完結がんばります。