夜に見たもの
本当にお待たせしました。ごめんなさい。
オルハは空腹でめまいを起こしながら、道を歩んでいた。
すでに暗くなり、このあたりの住民はすでに寝入っているだろう。
何故オルハがよろけながら歩いているかというと、単に空腹だからだ。空腹のため眠れなかったのだ。オルハはよろめきながら外に出て、何か食べられる草でもないかと夜の闇をさまよっていた。
無論それは無謀な行動だ。
もともと食糧採取をしたことのないオルハに、食べられる草と食べたら危険な草の見分けなどつくはずもない。
また木の実類もあまり実らず、足元に生える果実類は闇夜で全く見えない。
切り立った崖や、人の行き来が多いため大型の獣が少ないだけがわずかな救いだが、まったく救いとオルハは考えていなかった。
かろうじて、道はわかる。道から外れれば立ちどころに藪に突っ込むからだ。それでもオルハは食べ物を求めて闇を進んだ。
木々をかき分けると、潮のにおいがした。
ひたすら下ってきたのだから当然だが、海の見える場所まで下りてきてしまったらしい。
雲が切れて、薄い月が現れた。幽かな月明かりでも波がしらが幽かに見えた。
ふいになんだかわからない、妙な声が聞こえてきた。
オルハは身体を緊張させた。このあたりに大型の獣はいないはずだ。しかし何事も例外というものはある。
オルハは青ざめて、周囲をうかがう。
声はいつまでも続く。
恐る恐る、オルハは声のするほうをうかがう。
背の高い男、その独特の体系と月明かりでもわかる色の薄い髪の色であれが誰だかすぐに分かった。
エビスだ。
オルハは顔をしかめる。
オルハはエビスのことを人の形をした動物だと思っていた。あれは動物が吠えているだけ。
すぐに興味を失い、別の場所に行こうとする。
その声は、妙に規則性を持って聞こえた。エビスはただ吠えるだけだと思っていた。
「こんなところで何をしている」
ふいに聞こえてきた声にオルハの肩が跳ね上がる。
「オルハ、か、何でこんなところにいる?」
そこにいたのは船乗りのおじじだ。ほかの人間が寝静まっている時になぜおじじがこんな場所にいるのだろう。
「何を見ていたの?」
「エビスを」
エビスは相も変わらずわけのわからないことをぶつぶつを呟いている。
「エビスは何をしているの」
「星を読んでいる」
星を読むという聞きなれない言葉に、オルハは目を瞬かせた。
星は見るもので読むものではない。
「星を覚えておけば、東か西か南か北かぐらいはわかるからな」
そんなことは初めて聞いた。
「わけのわからないことを言っているだけよ」
「あれはエビスの言葉だ。ここより遠い場所では、まったく違う言葉を使う者たちがいる。エビスもいた場所もそうだ」
エビスが言葉を使うと聞いて、オルハは意外に思った。エビスは獣のように吠えているだけだと思っていたのだ。
「エビスがああなる時、決まって北を見ている」
何故わかるのかと聞こうとして思いとどまった。当然オジジも星が読める。だからエビスの見ている方向が北だとすぐにわかったのだろう。
「エビスのいた場所はここより北にあるんだろう、遠い遠い場所だ」
おじじはさびしそうにそう言った。
「なんでこんな場所にいる」
問われて、オルハは悔しそうに食事を抜かれて空腹で眠れなかったのだと訴えた。