海の上の狩
謎の言葉、シーシェパードさん喧嘩上等の意味がいま明らかに。
ナギは一人で山にいた。
山の上から海を眺める。ここから見える海は果てしなく広い。向こう側が切れたように見えなくなる。
船を移動手段として使ったことなら何度もある。だけれどそれはたとえ、船の倍時間がかかったとしても、歩こうと思えば歩ける距離だ。
どれほど歩いても行きつけない場所はどれほど遠いだろう。
平地では見えない、ある程度上らなければ見えない場所に、船が進んでいる。
湾を抜け、沖へと進んでいる。一列に並んで。
これはスナドリヒトのみが許された漁だ。
ナギのような、船乗りは参加を許されない、近づくことすらも。
誰もが水平線の向こうを凝視している。
背びれが見えたとほぼ同時に丸く輪のように伸びあがる独特の姿が見えた。
イルカだ。
日の光を受けて、黒光りする背中。それがくるくると自ら浮き沈みしているのが見える。
船底から道具を取り出す。太い竹筒の節を抜いたものだ。
一人が、竹筒を海面下に沈めた状態で支える。棒を持って竹筒を叩く。
イルカは音に弱い。音を使って追い込む。
船が陣形を作った。叩く棒の音に合わせてイルカがのたうつ。
あれは音に弱い。
音で脅かせばあっという間に群れを乱す。
のたうつ周囲に細かい泡が躍る。その白い泡と黒い肌が奇妙なコントラストをなす。
竹の棒を打つ動きが次第に激しくなる。そしてそれに連動している形ののた打つさまも激しくなった。
船は徐々に輪を狭め、ついに数頭のイルカを取り囲むようになった。
ずっと動かずに様子を見ていた男達がそれぞれ得物を取り、立ち上がる。
銛や投網、こん棒など、様々な道具を構え、躍りあがるイルカの脳天を狙う。
網を持ったものは背後に下がり、銛やこん棒を打ち鳴らす音が辺りに響いた。
海水が赤く染まる。
刺さった森を手掛かりに、投網をもった男達が網を投げる。
十分に弱らせてから出ないと、船に引き揚げたとしても跳ね上がって逃げてしまう。イルカは力が強い。完全に弱らせてからでないと船からたたき落とされる。
硬い筋肉の感触が、銛を通して伝わってくる。
尖った口元から血泡を吹くその頭部をこん棒でたたき割る。
背中の鼻によく似た穴からも鮮血交じりの泡が吹き出した。
尾びれが痙攣する。
断末魔だ。完全に死に切ってしまうと肉の味が落ちる。網でくるんで手早く船にあげる。
イルカはその長さは人の身長をはるかに超える。一頭を乗せるだけで船は大きくかしいだ。
ほかの船も次々に獲物を収穫していく。
辺りに漂う潮の臭いが一気に生臭く変わっていく。
時折、尾びれが痙攣する。それを見ながらスナドリヒト達は再び陸地を目指した。