表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナギ  作者: karon
30/40

船を焦がす

 船を引く。

 削りあがった船を屈強な男たちが引いて行く。

 石にあたって船が痛まないように刈り取った下草を船の下に引いて行く少年達。

 それを里のみんながわきで見物している。

 大船を作るのは数年に一度。山一番の巨木をくりぬいて作る。

 仕上げは、里に下りてからだ。

 縄をかけるのに残していた枝を切り落とし、それを織の女衆のおばばに渡す。

 その木を燃しながら、儀式が始まる。

 船の火入れだ。

 赤々と燃えた二本の松明。一本は内側を、もう一本は外側をまんべんなく燃やしていく。

「船が燃えちゃうよ」

 ナギの傍らでサザがそう呟いた。

「燃えないよ、あれは外側だけ焦すんだ。日の加護で船が守られるようにするんだよ」

 ナギはそう言って、赤々と燃える松明と、白かった木肌が黒く焼け焦げていく様を見ていた。

 ぼろぼろと炭化した木片が崩れる。しかしそれもほんの一部だ。むしろ削り出す際の凹凸を滑らかにしているようにすら見える。

 いや、実際そうなのだろう。炭で黒光りするその様は先ほどまでの木無垢の姿よりもきれいに見える。

 ナギはそれをじっと見ていた。

 あの船に乗る。

 今更ながらの実感だ。

 もうすぐ春も終わる。そして新しい夏がやってくる。

 選ばれなかった少女達が、見物していると、年長の土の女衆達に追い立てられていた。

 慌てて籠を持って、川に向かう。川の魚や貝は土の女衆の取り分だ。

 いつの間にかそう決まっていた。

 しかし、海が近いため、海の魚介類のほうがおいしいためそうした仕事にあまり熱心にはならない。

 実際、あの黄土色の巻貝は、どこかドロの臭いがしてナギはあまり好きではない。

 まあ、サザエの苦みがサザは嫌いでよく泣いて嫌がるけれど。男衆は喜んで食べている。

 ナギはついて行ってみた。

 小川に膝まで浸かって少女達が籠を片手に貝を取っている。

 あのまずいのだ。

 ナギは眉をしかめた。

 川にいた少女達がナギを指差して、何事か囁きあう。

 少女達はなぎと同じくらいの年だ。あの日おじじがナギの手を取らなければ、ナギもああして川で貝を取っていたはずだ。

 少女達はナギを指差す。その仕草で、ナギはあの少女達と違うと思う。

 ナギは遠くへ行く。あの子達はずっと死ぬまでここにいる。

 サザとミギワは、あまり珍しくないのか、川に興味を示さない。

 いくら船乗りや、すなどりひととて真水は飲まねばならない。

 ナギが川から取るのは水だけだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ