船を焦がす
船を引く。
削りあがった船を屈強な男たちが引いて行く。
石にあたって船が痛まないように刈り取った下草を船の下に引いて行く少年達。
それを里のみんながわきで見物している。
大船を作るのは数年に一度。山一番の巨木をくりぬいて作る。
仕上げは、里に下りてからだ。
縄をかけるのに残していた枝を切り落とし、それを織の女衆のおばばに渡す。
その木を燃しながら、儀式が始まる。
船の火入れだ。
赤々と燃えた二本の松明。一本は内側を、もう一本は外側をまんべんなく燃やしていく。
「船が燃えちゃうよ」
ナギの傍らでサザがそう呟いた。
「燃えないよ、あれは外側だけ焦すんだ。日の加護で船が守られるようにするんだよ」
ナギはそう言って、赤々と燃える松明と、白かった木肌が黒く焼け焦げていく様を見ていた。
ぼろぼろと炭化した木片が崩れる。しかしそれもほんの一部だ。むしろ削り出す際の凹凸を滑らかにしているようにすら見える。
いや、実際そうなのだろう。炭で黒光りするその様は先ほどまでの木無垢の姿よりもきれいに見える。
ナギはそれをじっと見ていた。
あの船に乗る。
今更ながらの実感だ。
もうすぐ春も終わる。そして新しい夏がやってくる。
選ばれなかった少女達が、見物していると、年長の土の女衆達に追い立てられていた。
慌てて籠を持って、川に向かう。川の魚や貝は土の女衆の取り分だ。
いつの間にかそう決まっていた。
しかし、海が近いため、海の魚介類のほうがおいしいためそうした仕事にあまり熱心にはならない。
実際、あの黄土色の巻貝は、どこかドロの臭いがしてナギはあまり好きではない。
まあ、サザエの苦みがサザは嫌いでよく泣いて嫌がるけれど。男衆は喜んで食べている。
ナギはついて行ってみた。
小川に膝まで浸かって少女達が籠を片手に貝を取っている。
あのまずいのだ。
ナギは眉をしかめた。
川にいた少女達がナギを指差して、何事か囁きあう。
少女達はなぎと同じくらいの年だ。あの日おじじがナギの手を取らなければ、ナギもああして川で貝を取っていたはずだ。
少女達はナギを指差す。その仕草で、ナギはあの少女達と違うと思う。
ナギは遠くへ行く。あの子達はずっと死ぬまでここにいる。
サザとミギワは、あまり珍しくないのか、川に興味を示さない。
いくら船乗りや、すなどりひととて真水は飲まねばならない。
ナギが川から取るのは水だけだ。