祭りの終わったその後に3
ナギも、他の子供たちも、毎日船に乗るわけではない。
浜や岩場で篭を片手に、採集に励む日もある。
ようやく背の立つくらいの深さで、海中に潜り貝を集める。
ナギは背後の陸を眺めた。
まるで自分は海の女衆だなと、そんなことを考えて、苦く笑う。
この近辺で、こんな仕事をしている女はナギ一人だ。
サザエは、岩のところにいるのが美味しい。砂のところのサザエは不味い。
そう呟いて、水中深く潜った。
篭の中がある程度重くなったら、濡れた体のまま他のすなどりびとのところに持っていった。
魚も骨を取り除いたら、しばらく海水につけた後、干し上げてしまう。
あさりや蛤は、甕に入れて、海水の上澄みを満たした中で砂を吐かせてから殻をはずし、干しあげる。
ここ数日は天気が言いと判断され、魚も獲ったはしから捌いて干しあげる作業が続いている。
夏と秋の間にて獲れるものは獲れるだけとって、塩漬けにしたり干し上げて保存状態をよくし、冬に備えなければならない。
だから、夏と秋は忙しい、それが、少しだけ、ナギは救いだと思った。
ナギより年長の少年たちが、貝を殻からはずしている。
それより、さらに年長の少年が、ナギに篭を渡した。
その篭には、魚の中骨が大量に入っていた。
びしょ濡れだが、かまうものかと軽く両手で髪を絞り、篭を手に上に登っていく。
すぐに、草を刈る土の女衆を見つけ、篭を渡そうとした。
しかし、今手が離せないから、他のものに渡してくれと言われ、おじじと同じくらいに老いた女衆に籠を渡すことにした。
「濡れたままじゃないか」
そう言って、ナギの口に自分の篭に入っていた小さな木の実を放り込んでから女衆はナギをそう咎めた。
「早く乾かしな」
「どうせまた、海に入るからいい」
ナギはそっぽを向いて答えた。
「髪が痛むぞ」
「別にいい」
嘆かわしいといわんばかりに、女衆はため息をつく。
女衆は常に、土にまみれ身を粉にして働いているが、それは、いつも昼間だけだ。
夜になれば髪をくしけずり、簪や櫛で身を飾り、丹でその顔を彩る。
それは、ナギの額に刻まれた文様とはまったく趣を異なる女の化粧。
昼とは異なる異形の顔。
そうした女達は、大人のすなどりびとや、山の男衆にしなだれかかり、かいがいしく世話を焼き、そしていつしか、闇の中に消える。
そんな女衆を、ナギはいつもどこか薄気味悪く思っていた。
「あたしは船乗りになるから、おんなじじゃないもん」
ナギがそういえば、女は虚を衝かれた顔で、しばらくぽかんと、ナギの顔を見ていたが、苦笑して、ぽんぽんと、ナギの頭をたたいた。
「どこの女でも同じ、海だろうが織だろうが土だろうが、女のすることに変わりなんぞない」
「何だ、それは」
「子供にゃわからん、わからんでいい。そのうち、わかるからな」
山の男衆は常に来るわけではない。はるか向こうの山を越えてやってくる、鹿やウサギの死骸を持って。
それらは、皮をはぎ、肉を干し、骨を煮立てて芋や木の実を煮る。
いつもと同じ仕事だ。