春の摘み草
土の女衆達は伸びてきた新芽を摘んでいた。
雪の間から伸びてくる新芽は春だけしか食べられない限られた食材だ。
かごに、数本とっては一本残し、数本とっては一本残しというリズムで摘んでいく。
そろそろうららかな日差しが当たる。
風はまだ冷たい。
それでも柔らかな日差しは戻っていた。
そろそろ籠一杯になろうとしている。
これはあまり日持ちしない。採ったら即調理しなければならない。
仲間達も、それぞれ、今日の分は終了することにしたらしい。
調理担当の仲間にこれを渡すと、今度は別のものを採取に向かう。
土に生えているものはなんでも、彼女たちの獲物だった。
空気より先に海の水のほうが、温むのが早い。
ひざまで水につかって新しく映えた海藻をナギは収穫していた。
海藻は春先にとれたものが柔らかくておいしい。
木の新芽は、物によっては毒があるが、海藻の類は、味はともかく、毒のあるものはほとんどない。
だからサザとミギワが何を摘もうと安心して見ていられる。
しかし、あれはホンダワラだ。あんまりおいしくない。
「もうちょっと緑のひらひらしたのを摘んでよ」
そう言ってナギがいさめても二人ともどこ吹く風だ。
どうやら二人で遊び始めたようだ。
ナギは小さくため息をつく。
海藻が生えているあたりは尖った岩場だ。
黒々とした岩のあちらこちらに薄緑の海藻がそよいでいる。
ここは浅いが、急に深くなることもあるのだ、あまりはしゃいでほしくない。
ようやく雪が消え、あたりは暖かく過ごしやすくなった。
冬じゅう閉じ込められていた二人がようやく海に触れることができたのだ。はしゃぐ気持ちはわからないでもないが。
それに、この海藻を採取して、岸で干しあげなければならない。
取れる時期は少ないのだ。
ナギは目を細めて沖を眺めた。
すなどりひとたちは、すでに、小舟で沖に向かっている。
すでに海はなだらかな波が躍っている。
雪明かりとは別の春の光がナギを照らしている。
「サザ、ミギワ。足下が危ない」
そんなナギの心配もどこ吹く風できゃあきゃあ言っている。
つかんだ海藻の隙間から指ほどの大きさの小魚がすり抜けていく。
ナギ達が、船に乗ることができるようになるにはしばらくかかる。
その時までに少々落ち着かせないと。
ナギはそう思いながらサザとミギワの首をつかんだ。