船が消える
溶けかけた雪を踏みながら、海へと向かう。
海のそばに置かれたたくさんの丸木舟、それに刻まれた刻印を頼りに自分達の船を捜す。
そして船を隅々まで点検する。
その光景をなぎとサザとミギワが見ていた。
もうすぐ冬が終わる。その前に船を動かせるようにしなければならない。
雪に埋もれていた船が傷んでいないか確認する男たちを、ナギ達の背後でおじじとシビが見ていた。
シビはもう行くことはない。
雪の中から掘り出された船を黙って見ている。
そして作業が始まった。
ナギはいずれの時のためとその作業を真摯に見ている。
丸木舟の両脇に付けられた別の丸太。それは長距離を進む船だから転覆防止のためだ。
そうしたものはすなどり人の乗る船には取り付けられない。
すなどりひとはよっぽどのことがないとそう遠くまで行くことはない。
一つの船に取り付いていた者たちが振り返ってシビを見た。
シビは無言で彼らを見返す。
あれはシビの乗ってきた船か。
これが最後と、雪の中ようやく芽の出た山菜を土の女衆は山で掘り返していた。
それが別れの宴に添えられるのだろう。
雪はもうそろそろ降らなくなってきた。
もうすぐ雨が降るようになるだろう。そして雨が降れば、冬も終わりだ。
ナギは木々の間を進みながら、いつの間にか赤く色づいた木の芽や、雪を押しのけては得つつある植物の芽を視線で追っていた。
それでもまだ風は冷たく、ナギの背筋を凍らせる。
素足で歩くナギの指先は赤くなっていた。
今足の指の感覚がない。
すなどりひとや、ナギ達船乗りが、帰っていく船乗りたちのために別れの宴の支度をするために、土の女衆のところまで取りに行く。
サザやミギワは身体が小さいので、さして量を運べない。
必然的にナギの仕事になる。
山を上り、土の女衆のたまり場を目指す。だが別れの宴は海に生きる者だけで行われる。
土の女衆も参加はできない。
ナギが来たことで、そろそろかと土の女衆も頷きあう。
おそらく宴の前に旅人達に侍るつもりだろう。
ナギは無言で、冬じゅう貯蔵されていた木の実の残りや、酒の甕を受け取る。
夜じゅう続いた宴が終わり、夜明けとともに船が出る。
船は三々五々それぞれの方向に向かい水平線のかなたに消えていく。
最後の船が消えるまでナギ達はその場に立ち尽くしていた。




