改めの時
おじじはサザとミギワを男に引き合わせた。
男はシビという。おじじのように髪は真っ白になっていないが、生え際はまだらに白くなっている。
日焼けした肌に、顔にはやや深いしわが寄っている。
それをナギは離れた場所で見ていた。
おじじはおそらく自分がサザや水際が時を迎えるまで生きていられるか分からないと思っているのだろう。
だから後を任せるシビにサザとミギワを引き合わせた。
これからシビが新しいおじじになるのだ。
ナギはおじじを見た。おじじは、幽かに笑った。
しばらくシビはサザやミギワとたわいもない話をしていたが、ナギに近づいてきた。
「これはもうじき仕上がるな」
「ああ、もうここには置いておけん」
その言葉にナギは胸を詰まらせる。
ここを離れる日が近づいているのだ。
前の祭りで、置いて行かれた時は、自分も行きたいと思った。
もう旅人になる子供は自分一人になると思ったから。だけど今はサザとミギワがいる。
二人を置いていくのだ。
ナギが悄然とした顔をしているのを見て、シビは苦笑した。
「全く戻ってこられないわけでもない、現にイサナは帰ってきただろう」
イサナといわれてナギは首をかしげる。
「お前、名前を知らなかったのか?」
それでようやくイサナがおじじの名であることに思い当った。
物心ついた時にはずっとおじじとしか呼んでいなかった。それに、まわりのすなどりひと達も、おじじとしか呼んでいなかった。そのうちおじじはおじじという名前なのだと思い込むにいたった。
ナギはまじまじとおじじの顔を見た。
「そういや、知らんかったか」
おじじは気まずそうな顔をして、ナギを見た。
しばし二人顔を見合わせていたが、どちらともなく笑いだした。
笑いながら、何がおかしかったのか、ナギにもわからなくなった。
「まあ、春になれば、久しぶりにあれが見られるな。
シビの言葉におじじも頷く。あれが何かナギも知っていた。
イルカを取るのだ。
イルカは漁をする対象としては大きな部類にはいる。
そのため複数の集落が協力して漁をする。
その漁にナギや、おじじといった者達は関わることを許されない。
あれは神聖な生き物だからとすなどり人の年長者は言う。
そのため漁の初めは、織の里のおばばたちが来て仰々しく儀式を執り行う。
ナギ達は漁に参加しないが、儀式には混じって受ける。
あの生き物はナギに深いかかわりがあるからだ。
シビは、マグロ、イサナは鯨です。海産物シリーズ。
シーシェパードさん喧嘩上等、これからイルカ虐殺シーンが入ります。