織の里の退屈
ナギは土の女衆に頼まれて、織の里まで、荷物を運んでいく。
縄で枯れ草を止めただけの足元はすっかり濡れて、いっそはだしのほうがましなくらい冷え切っていた。
織の里の女たちはあまり足腰が達者ではない。そのため、定期的に食料を届ける。
冬場はスナドリヒトの仕事は激減するため暇を持て余していたナギが雑用を言いつけられているのだ。
うんざりとした眼で近づいてくる織の里を見ていた。
最近顔を見なくて済んでほっとしていたのに。
そう思いながら、ナギは、もくもくと荷物を背負って登り続ける。
ようやく着いた時、ナギは雪にまみれて真っ白になっていた。
顔見知りの織の女衆がナギを見つけて、荷物を受け取る。
煮炊きは、こちらでもできるものがいるので、そのまま渡せばいい。
オルハの顔を見ないうちに、そう思って雪も払わずそそくさと帰ろうとした時、別の女に呼び止められた。
「ナギ、客人はどうしている?」
スナドリヒトの里に滞在している。旅人たちのことだろう。
何をしているといわれても返答に困る。
土の女衆にもてなされているだけだ。
織の女衆は冬になるたびに興味津々でナギを問い詰める。
ナギはそれをあしらうのにいつも苦労していた。
続々と女衆は増えていく。うんざりとした顔を隠そうともせず、ナギは当たり障りのない話を振っていた。
実際、ナギは山を登ってきて、雪がぶ厚くはりついている状態だ。さっさとねぐらに戻って休みたいと思っている。
しかし、そんななぎの現状を見えていないのか、わくわくとした顔で、ナギの次の言葉を待っている。ナギが不機嫌な顔をしているのも見えていないようだ。
緑の石がとれる川の話をしてみた。
ここから北に海を進んだ場所で、緑の石を川底から拾う儀式があるとかそんな話をした。
このまま話し続けていると、凍死してしまう。
切実に危機感が募った。
「随分、耳障りな話をしているわね」
ナギは寒さに凍えながら冷たい汗をかいた。会いたくなかった奴に会ってしまった。
オルハが、寒風に長い髪をなびかせて、ゆっくりと歩いてくる。なぎ徹派の不仲を知らないこのあたりの人間はいない。
それ以上、顔を合わせないうちにと、ナギを送り出した。
ある意味助かった。ナギは雪の中を進むうちにそんなことを思いながら、すでに感覚の無くなった足を進めた。
結局オルハとまともに話さなかった。話すつもりもなかったが、しかしオルハのおかげで助かったのでそれは、何か言ったほうがいいかもしれないと思ったが、余計にこじれそうな予感もした。
帰りの荷はなく、下り坂なので、ナギは先ほどより早歩きで歩いた。