取り残されて
お久しぶりのナギですごめんなさい。
かじかんだ指が糸を拾い損ねる。
オルハは忌々しげに舌打ちをした。雪がちらつくころになると、指の動きが強張る。
布を編むことはオルハにできる唯一のことだ。寒さはそれすらできないようにする。
雪が太陽を反射して、目の前は明るすぎるほど明るいのに、オルハは作業に集中できないでいた。
おばば達は、もう年だ。寒くなれば最近は寝込むことも多いようだ。自然まだ若いオルハに作業の負担が増える。
ほかにも布を編むものはいるが、いずれもオルハよりも編み目は粗い。
オルハは、作業のことを考えられない。考えるのは、ここで何度目の冬を過ごしたかという事だけだ。
去年もその前の年も、ここに坐っていた。
きっと来年もそうだろう。その後の年も、このままおばばの年になるまで。
オルハは自分の手を見る。自分にできることはたった一つ、編むことだけ。編むことだけのための手だ。
長くのびた爪は糸をすくうため、それ以外は物を運ぶこともない。
最近、ナギを見ない。
スナドリヒトが海が荒れているので仕事をしないのでナギもそれほど仕事がないのだろう。
ナギは自分とは違う。ナギの来年はきっと違う場所で冬を迎える。
自分がここに縛り付けられている間。
そんなことを考えていると、ますます布を編めないでいた。
オルハは気づく。指がかじかんでなどいいわけだ。いま自分は編みたくないだけなのだ。
分の存在意義といっても過言ではないその作業を厭う理由はただ胸のうちで渦巻いている。
その中心にいるのは日に焼けた、肩までの髪をした自分と同い年の少女だ。
ずっとうらやんでいたのだ。
そのときオルハはずっと認められずにいたことをようやく認めた。
認めて、その惨めさが薄らぐことはなかったが。
オルハの小屋の脇を通る。甲高い女たちの声。
食料を届けに来た土の女衆か、あるいは、他の織りの女衆だろうか。
盛んにスナドリヒトの里の話をしている。
今別の場所で生まれたという旅人が数名、スナドリヒトの里に一時的に住み着いているという。
その男達目当てに土の女衆はスナドリヒトの里に日参しているのだと。
自分の知らない遠くの場所の話を聞きにだろうかとオルハは思う。
おそらくナギもそのそばで聞いているのだろう。
いつか自分がその場所に立つために。
オルハは思わず、手を握り締めそうになった。
手を握り締めたら爪が折れる。爪が折れたらしばらく作業に難儀をしてしまう。ただでさえ指がかじかんで作業が遅れているというのに。
雪に埋もれたこの場所を、オルハの足で降りるのは無理だ。
一度雪が降ったら春になるまで、オルハは里を出ることができない。