素朴な疑問
ナギが里に戻ると、酒のにおいがした。
土の女衆がせっせと食料や、酒を持ち寄ってちょっとした宴会になっていた。
そろそろ、サザやミギワは槌の女衆のところに行くのが解禁になっている。
だから槌の女衆がいてもさして気にすることではないが。
ちやほやと女衆は旅人にはべっている。
ナギは小さくため息をついた。
そんな女衆をサザやミギワは珍しいものを見るように見ている。
「寒いだろう、小屋に戻れ」
そう言って二人に手をかけて、戻るように促す。
ナギは連なる。山々を見た。その向こうにある村を。冬は船を出せないし、山を越すのも危険だから冬にあちらの村に言ったことはない。
ただ人づてに聞くだけだ。あちらの村の冬は厳しいと。
ナギはふと不思議に思う。さして離れているわけでもない二つの村でどうしてここまで冬の厳しさが違うのか。
知らないことはいつもオジジに教えてもらう。
ナギが一度尋ねればオジジはあっさりと教えてくれた。
ナギの住んでいる場所の地形はと、オジジは左手の、握りこぶしを作る一歩手前で、曲げるのをやめた形を作る。
「ナギ、わしらの住んでいる場所はこっち」
そう言ってオジジは掌のほうに指差して見せた。
「そして向こうの村はこちら側にある」
そう言って、手の甲を指差す。
「囲まれているものは、熱が逃げにくいし、風も不正枯れルカら、こちらのほうが温かいんだ」
ナギはオジジの指をさした。
「じゃあ、これは山なの」
「そう、山が風を防ぐので、こちらのほうが過ごしやすい」
ナギは少し考えた。寒いとき、何もさえぎるものもない海上にいるより、木の生い茂った山の中のほうが少しだけ過ごしやすい気がする。
ほんの少しだけだけれど。
「その上、この場所は、小さくまたこのような形になっているからな」
確かに、この場所の海は、丸く切り取られているような形だ。
山の上から見れば一目瞭然なのだが。海は山で囲まれている。山が切れる場所に、外海へと通じる道がある。
「その分また過ごしやすい」
何かに囲まれた地形は過ごしやすい。
ならば、ナギは毎年のようにしんどいと思っている冬も、ほかの地域の人間からすれば、楽で楽でしかたがないという。
ほんの一山でそんなに違うのならば、更に遠くに言ったならどれほど違うのだろう。
いつか遠くに行く。それが少しだけ恐ろしいと思った。
なんとなく、ナギの住んでいる場所のヒントです。さあどこでしょう。