土の祭り 7
酒の匂いが濃くなってくる。男たちはずいぶんと酩酊の度合いを深めているようだ。
ナギは、ふと向こう側に、オルハがいるのに気がついた。
おばば達が、オルハに何事か指図しているようだった。
そういえばオルハはおばばたちの跡目を継ぐらしい。次の次ぐらいにオルハが儀式をまとめるようになるんだろうか。
それくらいなら、オルハも成人と認められるはずだ。
ナギは成人と認められる日が、ここを旅立つ日だ。何故ならナギは旅人だから。
ふと、オルハがナギのほうに視線を向ける。とたんに憎憎しげに唇をゆがめる。そんな反応はすでに慣れっこになっていた。
オルハな何かおばばたちに叱られているようだった。もしかしたら気を散らすなと言われたのかもしれない。
酒の匂いが濃くなり、そして木の葉や枝のくすぶる匂いが少し薄らいだような気がした。
少しずつ火が小さくなってきていた。
おそらく夜が開けるころにはすっかり火は消えているだろう。
少し、眠ってしまったことにナギは気がついた。
白々と夜が明け、そして穴を見ればあの色鮮やかだった木の葉はすっかり灰に変わっていた。
そして灰に半ば埋もれながら、壷がちらほらと屹立している。
灰を掻き分ければ、皿も出てくるのだろう。
おばば達に促されて、オルハが、清めの水をまいていた。
どうやらいくつかの儀式にオルハはこれからおばばたちの代理を務めることになったらしい。
ナギはたとえ儀式を行うのがオルハでも一応居住まいを正した。
おばばがやるとゆったりとした感じになるのに、オルハの甲高い声は、ナギには不快に思う。個人的怨恨も含んでいるかもしれないが。
灰の中のそれを取り出すことは今は無理だ、完全に冷めるまでに、もしかしたら、夕方までかかるかもしれない。
オルハの声が聞こえなくなってから、ナギはその場を後にした。おそらく、サザとミギワが心細い思いをして待っているだろうと思ったから。
ナギが、スナドリビトの集落に戻ると、祭りに参加できなかった子供たちが三々五々と寄ってきた。
子供だけで夜を過ごすのは相当心細かったのだろう。殆どがナギの衣をつかんで話さない。本来のサザとミギワが恨みがましい目をしてナギとの間にいる子供たちを睨んでいた。
ナギは手を伸ばしてサザとミギワの頭を撫でてやった。
ほかのスナドリビトたちも戻ってきたがいっかな子供たちはナギのそばを離れない。
おじじが土産に持ってきた食料をさらしてようやくナギから離れた。
ほかのスナドリヒトたちも戻ってきた。
ようやく子供たちの人垣がなくなりミギワとサザがナギにしがみつく。
「ずいぶん、なついたもんだ」
おじじがそう言ってナギの頭を撫でる。
「だが、またお前も旅立つ時が来る、そんなに、時間がない」
船乗りに選ばれる子供はいないときのほうが多いくらいだ。この二人もナギと同じように寂しい思いをするのだろうか。