土の祭り 5
ナギはわくわくとした気持ちで、普段は食事に来る広場に来ていた。
そこに、おりのおばば達がいち早くやってきて、塩と酒で周囲を清めていた。
そこに積み上げられた粘土の前に女衆たちはそろって並び、おばば達が振る布で頭部を清めてもらっていた。
それが終わると、それぞれの場所に陣取って粘土を掴む。
蛇のように細長く伸ばすとそれをそれぞれの器の形に形作る。
手の中で勝手に土が変形していくかのようにその動きはすばやくよどみない。
そして、二人係でもっとも大きなものに取り掛かっているそれは巨大な壷だった。
大まかな壷の形を作ってしまうと。其れに、縄を巻いた棒や、組紐などで紋様を刻み。縁を波型に形作っていく。
周囲で見物している者達の視線もそれに集中しているようだ。
それほどにその手さばきは見事だった。
粘土が乾くまでのほんのわずかな間に形を決めてしまわねばならない。そのため女達の手はよどみなく動く。
ナギはぼんやりとその手を見ていた。
土の女衆の手は、ナギの手と同じものとはとても思えない。
ナギは何度か土の女衆が篭を編むのを見ていた。
蔓を手によそ見しながら手だけが勝手に動いているように見えた。それでいて確実に篭は編みあがっていくのだ。
ナギがどれほどそれを凝視していてもその編む手の規則性を理解することはできなかった。
あっという間の出来事のようにも思えたが、それでも天を仰げば太陽は、相当の時間がたったと教えてくれる。
粘土は、殆どが、壷や皿に姿を変えていた。
再びおばば達が布を振ってそれぞれの壷などに清めをかける。
なぎはそれを黙ってみていた。儀式はこれで終わらない。これから数日かけて、捏ね上げられたものは、時間をかけてゆっくりと干されるのだ。
今はまだ湿り気が多すぎて、焼けば崩れてしまうのだと小さいころ顔も忘れてしまった誰かに教えられた。
ナギと同年齢の少女達が、使い残った粘土をそれぞれ手にし、さっきまで見ていた手業を思い思いにまねし始めた。
その少女達にはどこにも刺青が施されていない。
ナギは、自分の額に手を当てた。
皮膚が盛り上がってそこに刺青を施されているのがわかる。
ナギはその場を後にした、もう帰ろう。サザとミギワが待っているはずだ。
あの二人は、まだこの場に立ち会うことを許されていない。
だから今は留守番をしている。許されるのは、冬を二つ越えた後だ。もうあちらには戻れないときちんと納得した後。
ふとナギは思い出す。そういえば、ここでおばば以外の織りの女衆をしている女たちを見たことがないと。
織りの女衆の仕事は、ひたすら、布を編み上げるだけ。おばばが祭事を取り仕切るために現れるだけで。織りの女衆にはこれと決まった祭りはない。
私の説では、土器作りって季節行事だったのではと思っています。それで何故秋なのかといえば。梅雨時は論外。夏も暑すぎて、急速に乾いてかえって失敗。冬は、むり。それで秋です。