土の祭り4
土の女衆は一年寝かした粘土を捏ね上げ始めた。
砂と、獣毛を混ぜ、何度も練りこんでいく。それがなじむまで、再び寝かせ、天を仰ぐ。
おそらく明日には形作りにかかっても大丈夫だ。当分雨は降らない。
形作ったものをしばらく乾燥させねばならない。その間に雨が降れば万事休すだ。
力を込めて練り上げた粘土は、混ぜた砂のせいか、ざらりとした手触りだ。
練りあがったものは甕に収めた。
つい先ほど、木の実や、茸の収穫に出ていた女衆が戻ってきた。
手にこびりついた粘土をへらで丁寧にこそげ取っていく。これは貴重な粘土だ。大地の神の贈り物、一欠けらでも無駄にしてよいものではない。
肘から、手の甲、指の股まで、粘土をこそげとった後、ようやく川に手を洗いに行くことになる。
木の実や茸を入れた篭を受け取ると、今度は戻ってきた女衆が、自分達の分の粘土をこね始めた。
全員が、必ず一度は粘土を練りこみ、何度もそれを繰り返し、必要量を作り上げる。
これは年に一度しかできない、秋だけで、一年分一気に作ってしまうのだ。
別の女衆が、焚き付けに使う、乾いた枝をいくつも束にしていた。
この枝は、冬中使う分もあるが、祭りに使う分もある。いくらあってもいいと、熱心に集めている。
茸や木の実を処理すれば、自分も、枝を集めに行こうと、上を見上げる。
もうだいぶ紅く色づいてきた。
整形を早く終わらせなければいけない。
再び粘土を練りこむ湿った音が響き始めた。
ナギはこっそり木の陰から土の女衆の様子を覗きこんでいた。
乾しあがった貝を届けに来たついでだった。周囲には同じように覗いている子供達が大勢いる。
同じように届け物をしたついでの、織の里の少女もいた。それらの視線に気付かないのか、気付いても気にしないのか、もくもくと女衆たちは作業を続けている。
まるで生き物のように女衆の手の中で粘土はうねる。
それを見ているのが面白いのだ。
そろそろ形を作り始めるだろうかとナギはわくわくとその様子を見ている。
周りにいる子供達は、ナギよりも真剣に女衆のすることを見ている。ナギを除けば、そこにいるのは、土の女衆になるのがほぼ決まった少女ばかりだ。
いずれ来るべき日には同じように粘土をこねるのだ。その日に備えて、こねる手さばきを観察する目は瞬きすらしない。
毎年、この季節だけ見られる見世物、祭の中でも最大といわれる炎の祭。
それは後数日に迫っている。
ずっと見ていたい気もしたが、ナギはまた、海に向かわねばならない。
冬になって海が荒れ、外海に出られなくなる前に、漁をできるだけしなければならないのだ。
明日は形作りに入るはずだ。それを楽しみに、ナギは、海に戻った。