土の祭り 3
糸を寄るのは、織の女衆の仕事だが、縄をなうのは土の女衆の仕事だ。
枯れてきた下草を刈り、何本も縄をなっている。
壷に、たっぷりと入っているのは海の砂だ。
砂を川の水で濯いだ物だ。
様々なものを用意して、土の女衆は祭りに備える。
土の女衆だけの祭に。
頭上を見上げれば、張り出した梢に赤や黄色に色づき始めた木の葉が見える。このこのはがかんぜんに朱や黄色に染まったとき、祭が始まる。
今年も天候に問題はないようだ。
他の土の女衆は子供達が届けてくれた食材を集めて、ある物は塩をして甕に、ある物は通気性の良い篭にしまっていく。
祭の準備のほかに、この時期でしか獲れない茸を、子供達は、山野を歩き回って探している。
それらも乾して、保存していく。
秋は、一番忙しく、過酷な季節、それでも、もくもくと、自分に割り当てられた作業を続ける。
ナギは、土の女衆が使う小屋に、乾した魚をかけていた。
小屋の真ん中に、炉があり、ちょうど煙がかかる場所に乾すよう指示される。
煙がかかると傷むのが少し遅れるのだ。
山の男衆の取ってきたウサギや鹿の肉も同様な処置をされる。
ナギは、ちらちらと、祭りの支度をしている女衆を見た。
土の女衆の祭は、おそらく、他の祭よりも大掛かりだ。何日も前から支度して、その支度が積み重なっていくのを見て、祭が近づいてきたなと実感する。
小屋の天井はすっかり食材で覆われていた。
同じような小屋はあといくつもある。
土の女衆の祭りが盛大なのは、最終的にすべての里の人間が、参加し、手伝うからなのだ。
ナギも木の葉がすっかり色づいた頃に、手伝いに借り出されるだろう。
ナギが、すべての魚を吊るし終えたとき、織の里からおばば達が降りてきて、何事か話し合っていた。
織の里のおばば達は、神と対話するものたちでもある。
織り上げた布は、そのまま祭事に用いられる
祭りのために織り上げた布をおばば手ずから運んできたのだろう。
これは当然ながら破格の扱いだ。
織り上げた布やつむいだ糸は、ナギのように見習いがとりに行くか、織の里の見習い達が届けて歩くのが通例だ。
おばば達が広げた布が見えた。
白く光って見えるほど白い布だった。
ナギや他の子供、いや、大人が着る着物だって目が粗いやや黄ばんだ布だ。あれほど白い布を作るためには、どれほどの複雑な工程を経て、糸を処理し、織り上げるのか、おそらく、去年の祭りが終わったすぐ後から作り始めたのではないかとナギは思った。
いま「一枚は、真紅に染められていた。
紅い染料は貴重だ。その染料を惜しげもなく使って、血のように赤く仕上げてある。
しゃれ物の女なら誰もがほしがるような上等の布だ。
無論、それは祭のための、神に捧げるものだ。