土の祭り2
土の女衆は籠いっぱいに集めた木の実を掘り広げた泉に浸す。
周辺は木の枠で囲い、その中に木のみを沈めていく。
ここがいっぱいになれば、また次の泉に木の実を浸す。
たっぷりの水につけておけば、木の実は甘くなり、傷みにくい。それは、代々語り継がれてきた伝承。そしてそれが間違っていたことは一度もない。
木の実は実る時期が種類ごとに違う。こまめに収穫していけば、大体種類ごとに蓄えることができた。
木の実を浸し終えると、枝をくくって作った蓋をし、更に干草をかけて厳重に隠す。
これは冬の間に命を繋ぐ糧なのだ、ほかの獣に食われたらたまらない。
そして、周囲に、熊の毛皮をこすりつけた。
これで熊の匂いがつけば、木の実を鹿やウサギにとられずにすむ。
そして再び土の女衆は木の実の収穫をするため戻っていった。
ナギは、今日は海ではなく山の仕事を手伝わされていた。
サザとミギワはおじじのもとにいる。まだ海の暮らしに慣れていないときにうかつに土の女衆に近づけるわけにはいかないと言われた。
久しぶりに子守から解放されて、ナギは、少々肩の荷を降ろしていた。
スナドリヒトからもかわるがわる土の女衆の手伝いに借り出される。
ナギは、木の実をすりつぶす手伝いをさせられていた。
真ん中のくぼんだ石の上に置かれた木の実を何度も木の棒で叩きすりつぶす。
随分と根気の要る仕事で、ナギは始めてわずかな時間で音を上げそうになった。
くぼんだ石は、元々はたいらな石だったと伝えられている。
何度も何度もすりつぶすのに使っているうちに、真ん中がくぼみそのおかげで随分と使いやすくなったとか。
別のスナドリヒトの子供は、いまだたいらな石で、木の実をすりつぶしている。
あれがナギが使っているもののようになるにはどれほどの時間がかかるのだろう。
そんなことを思いながら、ナギは木の棒を使い続けた。
手首がだるくなった頃、ようやくお許しが出て、ナギは手を止めることができた。
軽く痛む手首をさすりながら、すりつぶしたそれに、葉っぱや干し貝を刻んだものをすり混ぜるのをナギは座り込んでみていた。
どうやらあれが今晩の夕食らしいとあたりをつけ、どれほど分けてもらえるだろうかと算段する。
ふとナギは頭上を見上げた。木々は少しずつ色づき始め、徐々にだが赤や黄色に染まりつつある。
ああもうすぐだ。
この木の葉から緑色が全部消えたら、土の女衆の最大の祭りが始まる。
今まで何度も見てきたその祭り、それは冬を迎える前に行われる。
冷たい冬の沈黙の前に盛大に一騒ぎしておこうとする炎の祭りだ。
土の女衆の気配は、湧き立つような躍動を感じさせる。
この土の女衆が一番忙しいこの時期。すべてが凍りつくその前の一足掻きにも似た祭り。
ナギはそれを思い出すと、物悲しくなる。
女達は大地に根を張っている。そしてナギの張るべき根はどこにもない。