表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナギ  作者: karon
11/40

土の祭り

 ナギは背後を振り返る。山が色づき始めていた。

 自分の足元には、新しく船乗りになった幼児二人が、岩場で貝を探している。

 まだ深く素潜りすることは難しいので、せいぜい膝までの水場で作業を教える。

 同じようにスナドリヒト仲間も、幼児相手に膝下の位置で海藻をとるなどの作業を教えている。

 沖を見れば丸太舟に乗って銛を打っているスナドリヒトが見えた。

「ああ、あたしもあっちがよかったな」

 ナギは少々ふてくされる。

 スナドリヒトは人数がいるので、新しく入った幼児の面倒は交替で見ればいい。しかし船乗りはナギとおじじしかいないため、どうしてもナギが付きっ切りで面倒を見なくてはならない。

 無論、新しい船乗り仲間ができたのは嬉しいが、面倒なことになったとも思っていた。

 今まではナギが一番年少だった。何故ならここ数年船乗りは新しく選ばれなかったから。

 しかし、ナギ一人になってさすがに危機感を覚えたのか、おじじは新しく二人の幼児を新たに選んだ。

 船乗りがなかなか選ばれない理由は一つだ。船乗りは旅立ってしまうから。

 今までいたナギ以外の船乗りも、死んだものを除けば旅立ってしまった。

 ここで役に立たないものは極力選びたくないのが人情だろう。しかし、それでも船乗りは必要なものだ。

 空は青く。山は黄色くなり始め風は冷たい。

 夏はもう終わったのだと、しみじみナギは思った。

 これから獲れる魚も替わってくる。ナギは思わず唾を飲み込んだ。冬は寒い、しかし、その代償として課、冬に獲れる魚はおそろしく脂が乗っているのだ。

 秋は土の女衆が一年で一番忙しい季節だ。その分殺気だっている。だからいい魚が獲れますように。

 そんなことを思いながらナギは沖合いの丸太舟を眺めていた。


 ナギは篭いっぱいの貝を取ると、岩場に作られた干し場に向かう。

 子供達も付いてくる。

 エビスの子供のほうは、サザ、もう一人はミギワという。

 巻貝の殻から中身を抜き取り、それを干し場に干す。

 スナドリヒトの見習いが、鳥の番をしていたが、ナギと子供達が交代する。

 水は冷たくなってきている。余り長い時間水に浸かっていられない。

 ナギは、木の棒を片手に、見張りを始めた。


 土の女衆の一人は、去年一年丹精したそれを踏みしめた。

 ぐにゅりと粘った音を立てる。

 やや明るいねっとりとしたそれは土だった。毎年決まった場所から取ってきて、その場所で寝かせ、より使いよくするためだ。

 次々と女衆は土の上に降りた。

 何度も何度も踏みしめ、土を足で捏ね上げる。

 秋には、一年分のそれを作らねばならない。ほかの季節では無理だ。秋だけしか作ることはできない。

 一心不乱にその粘土を踏みしめて、捏ね上げる。

 冬の食料を集めるのと同じくらい大切な仕事。

 土の女衆の祭りが始まる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ