4.伝説の植物を探しに行った魔女を探す旅は「乾草の中から針を探す」に等しい 後編
「バロメッツは今では木綿だったのではと解釈されているが、古代の記述を読むとそれでは辻褄が合わない部分も多い謎の植物だからなあ」
べルスランも首を捻り、ファティマも頷いた。
「どんな記述なんですか?」
「うん?『ひょうたん型の実がなり、中から羊が顔を出す。木の周りの草を食べて生き、その金色の羊毛は重宝されて、肉は食用になる』そうだ」
「……それは、木綿ではありえませんね」
ルスランが首を振り、ルーシェンも頷いた。
「べルスランの話の通りだとすると、華春国のシダがバロメッツというのはおかしいとザリーナも言っていた。そして、ザリーナなりに仮説を立てて、いつかタルタルス人に本当かどうか聞いてみたいとも。バロメッツの糸はタルタルス人の帽子の裏地に使用されているそうだからな」
「じゃあ、タルタルス人に会いに行った可能性は高そうですね」
ルスランは途方もない話に落ち込んだ。亡国の民に会いに行った魔女を一体どこに探しに行けばいいのだろうかと先行きが危ぶまれた。
「春京の薬草店に行ったとして、それは小一時間で済む話だ。慣れぬ場所だから時間もかかるかもしれんが、ザリーナが帰って来るつもりがあれば夜には帰ることができたはずだが、いなくなってからもう三日も経っている。多分、一つ所にはいない可能性が高い」
「他にも行きそうなところがあるのですか?」
ルスランが少し苛立った声でそう言うと、今度はガッドが口を開いた。
「ザリーナは俺の故郷のサボテンを欲しがっていた。多分それも採りに行っていると思う」
「サボテン?」
「ああ、烏羽玉という珍しいものだ。俺は西の果ての大陸のシャーマンだが、縁があってこの魔塔に来た。俺の国では呪術として植物を色々使うが、その内の一つにザリーナが興味を示した」
「じゃあ、西の大陸にも行った可能性があると?」
「そうだ。西の大陸は華春国よりも行きやすいし言葉も通じる。その分ザリーナは自由に見て周る可能性が高いだろう……」
ルスランは目の前が真っ黒になるような気分だった。もしかしたらザリーナは年単位でこの国に帰ってこないかもしれない。もし他の国が気に入ったらそこに住み着くかもしれない。ガッドやルーシェンがこの国の魔塔に住み着いたように……。
しかし、手掛かりがないわけではない。ルーシェンとガッドがザリーナが行きそうな場所や店を書き出してくれたのでルスランはそれを胸にしっかり抱いた。
――落ち込んでいる場合じゃない。
すでに離れ離れになってから三日も経っているのだ。ルスランは今すぐ探しに行かないと、大切なものを永遠に失ってしまうような気がして覚悟を決めた。
「皆さん、ありがとうございます。とにかく、まずは華春国に行って、ザリーナの足跡を辿ってみます」
「無理をしないでね。飛竜で行くにしても、砂漠と山を越えるのは容易ではないから北の海周りで行くと良いわ。その方が案外近いのよ」
ファティマはそう言って地球儀を見せた。確かに海に沿って行けば思ったよりも楽に行けそうだとルスランも頷いた。
「あの子が帰ってきたら連絡するわ。貴方が戻るまで魔塔に引き留めておくから。そうじゃなくても、ある程度したら帰ってきなさいな。あんまりあてどなく探し回っても駄目よ」
「分かりました。お世話をお掛けします」
べルスランもルスランの肩を叩きながら言った。
「そうだな。まさに『乾草の中から針を探す』とはこのことだ。万が一、ルスランに何かあれば一番悲しむのは結局あの娘だ。お前がいくら強いと言っても、アディーグを一歩出たら危険と隣り合わせだ。くれぐれも気を付けて行ってきなさい」
「ああ、そうだ。華春国はもちろんだが、他国では飛竜は珍しい。町の近くに降りる時は夜などを見計らって、それからまずこの男を訪ねるたら良い。こいつは絹商人でこちらの言葉も通じるから」
そう言って、ルーシェンは新たな地図と人相書き、そして文字のつづられた封書をルスランに渡した。
「助かります。では、行ってきます!」
ルスランは塔から飛び降り、飛竜に飛び乗った。飛竜は一声を上げると、真っ直ぐに飛び去った。
その様子を魔法使い四人が心配そうに眺め、揃って溜息を吐いた。
「もう三日よ。無駄足の可能性が高いわね」
ファティマの言葉にべルスランは首を振った。
「まあ、『探しに行った』という誠意を見せるのが肝心だからな」
「そうだ。ザリーナを見つけることよりもザリーナの許しを得ることの方が至難の業だ」
そう言って、ルーシェンが祈るように手を合わせ、ガッドはルスランへ精霊の加護を贈った。
ついにあらすじ通りルスランが旅立ちました!
彼は無事にザリーナと再会できるのか?
ここまでお読みくださりありがとうございます。
また評価や感想、ブックマーク、リアクションをいただけると励みになります╰(*´︶`*)╯♡




