第一章 ヘブン3
と、勢い良く外へ出たのは良いが、誰に聞けばいいのかまったくわからないのだが。
あの赤毛か? あの銀髪か? それとも、あの緑髪か?
……、だれに声をかけたものか。
キョロキョロと辺りを見渡すが、それらしい人は多くいるのだが、声をかけるタイミングとか、全く掴めないんだが。
どうしたものかな。
溜息をついて、ぼぅっとしてみる。
人が右から左、左から右へと、忙しなくまるで、流れがあって、その流れに乗って生きているかのように闊歩している。
その流れに乗っていないのは、俺一人…、いや、もう一人いた。
目の前には、下を向きトボトボと歩く少女がこちらへ向かって来ている。
その様子は、他の流れとは歪で、何処となく浮いてい見えた。
あれは、昨日の……。
「よう」
一応、一度だけだとしても、顔を合わせた奴がいてよかった。
まずは、一人だな。
俺は、見つけると同時に声をかけてみる。
しかし、彼女はまるで聞こえていないかのように、無視を決め込んでくれる。
デジャブだ。
あぁ、林童の時と同じか。
って事は、やっぱり、奴も何かあるのかもだな。
とりあえず、手をつかんでやる事にした。
「ッ⁉」
「おわッ‼」
手を掴んだ瞬間に鼻先を鋭い何かが通り。ほぼ同時に、激しい衝撃が右後頭部を襲った。
一瞬視界がぼやけたが、なんとか踏み止まる。
いや、ギリギリ踏みとどまれる程度に抑えてくれたんだろう。
確実に急所を捉えれたのに、若干外したんだ。
当てようと思えば、テンプルをうち抜けたはずだ。
「なに?」
ポツリと、彼女はそう言った。
素っ気無い返答だ。
いや、まぁ素っ気無いと言っても、素手にぶっ倒されているのだが。
「ちょっと、尋ねて見ただけだ。 なんだ、その、ちょっと聞きたい事がさ」
「だから、なに?」
無機質な瞳が俺を覗く。
「……、ヘブンって聞いた事ない?」
「……、ヘブン? 」
彼女は、首を傾げて見せた。
それから、何かを思い出すように、じーっと一点を見つめ、それから、何かを思い出したようで、ハッとあたりを見渡す。
「組織の事?」
「組織?」
そう呼ばれているのか?
「そう。 組織。 少なくとも私たちはそう呼んでる」
「私たち? 他にも誰かいるのか?」
「ええ。大切な仲間が」
そう、指差す先には、赤毛や青髪など、独特な髪色を華やかに晒している男が数人立っていた。
「あんたらも、ヘブン……、いや、組織を探しているのか?」
にっしっしと、薄気味の悪い笑顔を浮かべる男共。
多分それは、肯定を意味しているんだろう。
「あんたらも、訳有りなんだな」
「まぁ、色々とね」
「俺も、いや、俺たちもそんな感じさ」
「たち?」
「あぁ、もう一人いるんだ。 昨日、一緒にいたろ?」
「あぁ、あの」
「ところでさ、あんたらは、その……、組織、の事をどこまで知っているんだ?」
少女は俯く。
男共は、苦笑いを浮かべ、バツの悪そうに下を向く。
それだけで、充分だった。
「そっちも何にもなし…か」
コクッと、頷く彼女の目は、どことなく疲れているように見えた。
「まぁ、焦っても仕方ないさ。 ところで、あんたら、寝床はどうしてるんだ?」
「あぁ、俺たちは、アジトを使っているんだ」
「アジト?」
「あぁ、わりぃな、アジトの事は内緒なんだわ」
少女は、男共の中にひそみ、代わりに赤毛の男が話す。
てか、こいつめっさ阿呆そうなんだが、大丈夫なのか?
浅川とどっちが上か比べてやりたいな。
なんて、頭の中でバカ頂上戦を繰り広げていると、少女が、男の間を割って出てくる。
「いい。 許す。 仲間は多い方がいい」
「さっすが、ゆずっちだッ‼ 大海のような心の広さッ。 グッとくるぜッ‼」
ゴスっと言う生々しい音を立て、男はその場に倒れこんだ。
全く見えない拳が、頭部の急所を捉えたらしい。
俺もあの拳を食らっていたようだ。
おぉ、怖い。
「五月蝿い、黙れ」
言い捨てると、彼女は手を差し出した。
「わたしは、青川ユズ。 よろしく」
「あぁ、またなんかあったら頼らせてもらうさ。 それで、アジトって?」
「えぇ、街のショッピングモール建設予定地って知ってる? あそこ」
街のショッピングモール予定地って言えば、ここ数年、鉄骨だけ組んでそのまま放置されているあそこの事か。
「そこを寝ぐらに?」
「えぇ、風通しが良すぎるのと、雨が振り込む事を除けば、快適そのもの」
それって、居住性にかけるんじゃ無いのか、なんて思っても口には出さないが。
そうやって過ごしてる奴らもいるんだなと、少し世界が広がった気がした。