第一章 ヘブン 2
ヘブン…か……。
「浅川、起きてるか?」
電気は消えているが、たぶん起きているだろう。
「ヘブンって知ってるか?」
「……、なんだよ…。 明日も仕事なんだからさ……、もう寝るよ」
そう言ってもぞっと、寝返りをうつと、あっという間に寝息をたて始めた。
今日は、これ以上の情報を集める事は出来そうにない。
「せめて話くらい聞いてくれてもいいものを」
なんて呟いても、浅川はスヤスヤと寝入っている。
今ある情報は、ヘブンと言う、若い世代の人間にとっての、楽園のような場所、組織があるって事くらいで、詳しい事はまだ何にもわからない。
たった、それだけの情報だ、都市伝説のようなものなのかもしれない。でも、それでも俺は、ヘブンを信じてみようと思う。
楽園と言うくらいだから、きっとものすごい物があるに違いない。
そう考えただけでも、高鳴る胸の鼓動が、更に激しくせわしなくなる。
モンモンと、ヘブンへの妄想が絶好調に達したあたりで、一筋の光が部屋に舞い込んだ。
「朝日ッ⁉ ……、だとッ‼」
時計に目をやると、6時をとうに廻っていた。
「あれぇ、今日は早いんだねぇ。 朝御飯食べる?」
いや、俺にとっては夜食的な気分なんだが。って、違う違う、これはまずい、一大事だ、今日はヘブンについての本格的な聞き込みをしようと思っていたのに。
「何時だ?」
「はい?」
「何時に出かけるようにするんだ?」
「いやー、まぁ、お昼までにはて出かけたいとは思うけど……。 それで、朝御飯は?」
昼か…、現刻0630時頃、起床予定時刻1100時に設定。
最大睡眠時間、三時間三十分。睡眠後の推定体力、及び脳の疲労度。
身体、推定68%まで回復可能。脳、推定46%まで回復可能。
今考えれる最大睡眠時間での、推定活動時間、およそ5時間。
何を考えてるんだ、俺は。
まぁいい。とりあえず寝よう。
無言のまま床に就こうとすると、突然に後方からの攻撃を受けた。
被弾位置は、肩胛骨……。だから、俺は何を考えてるんだろうか。
多分、疲れで脳がしっかりと働いていないんだろう。
ボヤける視界には、何やら文句を垂れている林童の姿が写っていた。
悪いな林童。
もう限界だ。寝かせてもらうよ。朝飯はまた今度いただくさ……。
「……、起きろー、昼だよー」
……、眠い。
もぞっと、もう一度布団をかぶり直し、睡眠に入る。
どれ程の時間がたったんだろうか。
外を見てみると、辺りは紅に染まっていた。
「時間は……」
時計は、三時を廻った辺りを指している。
やっちまったな。
周りを見渡したが、林童の姿が見えない。
「先に行ったのか……?」
行ってしまったとしても不思議は無い、予定は昼前だったんだからな。
探すか? ……いや、俺は俺で聞き込むさ。
テーブルの上に置いてある冷めたチャーハンを見つけ、それを一気に頬張ると、勢い良くドアを開いて、外へと駆け出した。