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序章5

熱湯を注ぎ三分経ったカップ麺を両手に持った浅川が、慌てて戻って来る。


「荻野ッ‼ 大丈夫か、おい、返事をしろ」


喉が焼ける。やばい、だれか水を…、冷たい物を…はやく。


「毒を食らわば皿までってか、本当に鍋ごと食うやつなんか初めてみたよ……、って、感心してる場合じゃ無いな、取り合えず、これを喰って毒を抜くんだッ‼」


いや、気持ちはありがたいが、今、その熱湯の入ったカップ麺を食うのは非常に芳しく無い状況なんだ。おい、よせ口を開くな、なんだその目は、眼が怖いぞ、やめろ……やめてくれぇッ‼


俺の口に入って来た熱々熱湯スープは、喋る事すらままならない俺の喉をこれでもかという位に焼いて胃へと落ちて行った。

限界だ。


「どうだ? ちょっとは良くなったか?」

「………。」


無言で睨んで見る。


「おーい、荻野?」


お前も同じ目に合わせてやるさ。


「…林童、こいつを抑えつけろ」


言うのと同時に、林童は、浅川を捕まえた。


「さ、こっからが本番……、こっからが公開処刑だ」

「ヒィッ‼」


小さく悲鳴をあげる浅川の目は、マジで怯えている。

口をこじ開けると口の中があらわになる。


片手に持ったカップ麺をちらと見ると、にんまりと口がほころぶ。


さてっと。

一気に、カップ麺を注いでやる。

声にならない声をあげて苦しむ浅川は、目から涙を流している。


お前が先にやった事だからな、恨むなよ。


カップの中身が空になる頃には、浅川はその場にうずくまっていた。


「よし、もう風呂も準備出来ただろうし、林童、先に入ってこいよ」

「いいんですか?」

「あぁ、お前と今のこいつを二人っきりにすると、何をするかわからないからな」


そう言って、その場にのびている浅川を指差して言うと、林童は頷き浴室へと向かって行った。


ノックアウトされた浅川が、部屋で寝ている。


「まったく。おい、そのまま寝ちまうぞ、起きろッ!」


ぐったりとしている浅川は、手をだらりと上げて、フラフラとふって見せる。

浴室からシャワーの音が聞こえる。

どうやら、林童が風呂に入ったみたいだな。


「おおお、荻野、あいつ、風呂入ってるのかッ!?」


なんだよ、そんなに慌てて。


「そうだよ、なんか問題あるのか?」

「大ッッッッッッッ問題だッ‼ 仮に未成熟と言えど、女だぞ、それを自宅の風呂に入れるなんて。うぉーッ‼ 興奮してキタァッ‼」


鼻息を荒げ、部屋を汽車歩きで歩き回るこのバカは、まだ残っていたカップ麺の汁を撒き散らし、その場に倒れこんだ。


「服汚れた、風呂入って来る」


…ちょっとまて。


「どこに行く気だどこへッ!?」

「風呂だよ…」


浴室へと歩いて行った。


「勝手にしろ…」


数分後、鼓膜が破れそうな甲高い悲鳴の後に、凄まじい悲鳴が聞こえ、それと同時に、部屋の破壊される音を聞いた。

轟音とは、この事を言うのだろうなと、一人感心してみた。


窓の外には裸で宙を舞う浅川が、涙を流しながらこっちを眺めていた。


数分後、ずたボロになった浅川は俺の前でむすっとテレビを見ていた。


「自業自得だ」と、ツッコミを入れてみたが、当人えらくご機嫌斜めの様相で、軽く無視を決め込んでくれた。


まったく。


溜息をついて、無言の間をどうにか詰めようと考えていると、林童が現れた。

浅川の顔が一瞬引きつったような気がしたが、次の瞬間には、またぶすっとした、不機嫌面になっていたので、確認のしようがない。


「上がりましたぁ。えーと…荻野さん? 入ってくださいよ」


家主は僕だぞぉ~、とかまたツッコムかと思った浅川は、無関心を装って、テレビを眺めている。

こっちを意識し過ぎて、明らかに視線がおかしな方を向いてる事は言うまでもない。


「あぁ、わかった…」


とだけ言って、俺は浴室に向かう。


明日は、どうするかな。

林童が、俺の予想どおりに家出少女だったとして、学校にも行ってなかったとしたら、明日は一緒に行動する事になるかもしれないな…。


浅川は、明日は仕事があるのだろうか、あったとしたら、長居はマズイだろうな。


なんて事を考えながら、てばやく風呂をすませる。


戻ると、林童はもう寝入っているようで、浅川は未だにぶすっとテレビを眺めていた。

いや、見入っていた。

多分隣で林童が寝ている事にも気づいていないなだろう。


「浅川、風呂空いたぞ」

「あぁ」


一言だけ返してまたテレビに見入る。


俺は、コタツに入ると、そのまま目を閉じる。

今日は色々あったなと、思い出しているうちに、深い眠りについた。

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