序章4
台所から、調理をする音と、うまそうな匂いが漂ってくる。
浅川は、コンビニへ行くと出て行ってから、もう、数十分は経っているが、未だに帰らない。
そうこうしている間に、林童が料理を運んで来た。
「できましたよ、食材が全然なかったんで、チャーハンとみそ汁だけですけど」
全然オーケーだ、今なら豚さんのご飯でも涙を流しながらうまいうまいと、絶賛して食べれるだろうぜ。
ちらと、林童が持って来たチャーハンとみそ汁を眺めて見る。
「普通にうまそうだな」
「だから、料理出来ますよアピールしてたじゃないですかぁ」
まぁ、確かにアピールはしていたが、家出少女がなぁ、って思うだろ普通。
「あたし、ちっちゃい頃に、母親亡くしちゃって、ずーっと家でのご飯はあたしが作ってたんだ、レパートリーも結構あるんだよ」
もちっと早く言ってくれれば。
浅川がコンビニに走る事も無かったろうに。
「まぁ、取り合えず食べてくださいな、きっと涙流して悶絶しますよ」
「いや、悶絶って…、心配になって来た、本当に大丈夫なんだろうな」
「例えですよ、例え、美味し過ぎて悶絶したように歓喜する仕草を連想してくださいよ」
まぁ、匂い的にも食えない者でない事は何となくわかるが。
まぁ、いいか。
意を決して、チャーハンを口の中に放り込む。
なんだ、この味は、絶妙な塩加減、存在を誇示しすぎないベーコンに、全体のバランスを整えてくれるタマネギ。
そして、ふんわりと全体を包み込み後味をやんわりと、それでいてしっかりと残してくれる。
「最高だッ‼ こんなにうまいチャーハンを食った事がない、お前、実は三ッ星コックかなんかだろ」
「でしょー、とってもおいしいでしょ、もっと褒めて、褒めてッ! もっとッ‼」
確かに、言うだけの事はある、そんじょそこらの中華店のチャーハンが食えなくなるくらいうまい。
浅川よ、お前の苦労は全くを持ってしての無駄だったって事だな。
もう一口。
うめぇー、うま過ぎんぜ、最高だッ‼
と、林童的に言う、うまさの悶絶をしている時に、うまい具合に浅川が帰宅する。
「カップ麺でよかったろ? 参ったよ、近くのコンビニが閉店してて、ちょっと歩いたところのコンビニに行ったら、食い物が全品売り切れ、更に行ったところにあるコンビニは、カップ麺以外は全滅、って訳で……って、萩野ッ‼ 大丈夫かッ‼」
五月蝿いな、てか、どんだけついてないんだよ、コンビニが売り切れって、聞いた事ないぞ。
「わるい、俺が遅いばっかりに、今、カップにお湯淹れるからな、すぐに出来る、たった三分だ、三分待ってろよぉ~ッ‼」
叫びながら、走り去る浅川の目はマジだった。
ま、いっか。
「あいつが戻ってくるまでの間に全部喰っちまおうぜ」
本当は味わって食べたいところだが、この味を浅川に味合わせるのは勿体ない、あいつは百八十円のカップ麺を喰ってればいいんだ。
ハグハグと、がっついていると、林童も、状況を察したのか自分の分を大急ぎで食べ始める。
みそ汁もきっとあいつに食わせるには勿体ない味なんだろうな。食べ終えたチャーハンの皿を遠くに置き、目標を目の前のみそ汁に向ける。
この間、一分三十秒、残り半分。
ずずず、とみそ汁を一気にかき込む、みそ汁も最高の味だったが、それに歓喜している余裕は無い。
「鍋ごと貰うぜッ‼」
火にかかっている鍋を持ち上げると、一気にかき込む。
丁度三分…。
「三分たったぞ~、今日のカップ麺は最高の味だと思うぞって、萩野どうした? 返事をしろッ‼ 萩野ッ‼ 萩野ォォォオオオッ‼‼」
火にかかった鍋なんて、丸飲みするんじゃ無かった。
と、喉を抑えて悶絶しながら、意識が遠のいて行く俺は後悔していた。