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序章3


林童は、息を荒げ、目を腫らしてそこに立っていた。

その様子を見るだけで、あの後の事が容易に想像できる。

浅川は、林童に激しく文句を垂れているが、林童本人はそれどころではない様子だった。


「後は俺に任せろ、お前は先に家にいろ」

「さすが荻野、ガツーんと言ってやってくれよな」

「おう」


と気前良く返事をしてやると、機嫌をよくしたようで、鼻歌混じりに部屋へと入って行った。


「何かあったのか…、まぁ、言わなくても大体わかるが」


林童の気の落ちようは尋常ではない様子で、放って置いたら、ここから飛び降りてもおかしくない程に追い詰められている。


暫くの沈黙を置いて、俺は、手招きをする。


「ちょっと寄ってかないか、安心しろ、俺の親友だ、大抵の事は気にしない質だから、大丈夫だ」


林童は、こくっと一回頷くと、俺の後について来た。


取り合えず、一応許可はある訳だから、勝手に上がらせてもらう。

入ると、テレビと、コタツが置いてある。

取り合えず、テレビをつけ、コタツに入る事にする。


「ほら、お前もそっち座れよ」


そう言うと、突っ立ったまま、ぼぅと、部屋を見渡していた林童は、静かに座った。


ガラリと、ふすまが開かれ、浅川が登場した。


「暇つぶしに、ゲームやろうぜぇって、なんでこいつまでいるんだよッ‼」


先程、自分を地上3メートルからダイブさせた張本人がコタツに入ってくつろいでいるのを見るや、浅川は林童を指差して叫ぶ。


「いや、別にいいんじゃないか?」

「よくねぇよ、大体こいつ、さっき僕を突き落とした張本人なんですけどッ‼」


それは聞き捨てられないと言う表情で、林童は膨れっ面を見せる。


「あれは、事故ですよ、突き落としたなんて、人聴きの悪いこと言わないで欲しいです」

「そうだな。 浅川、言い過ぎじゃないか?」

「なんで、そいつの肩ばっか持つんだよ、落ちたのは僕だぞッ! そして、ここは僕の家だ」


頭に血が上った浅川がうがーと騒いでいるが、俺はそれを片目に捉えつつ、林童の様子を伺う。


さっきに比べれば大分落ち着いたようだが、それでもまだ表情に曇りが見える。

しかし、それでも平然を装っている。


「まぁまぁ、落ち着けって、こいつも反省してるんだから、いいじゃないか……な?」


俺は、そう言って林童の方を向く、彼女は何かを考えているようで、俯いていたが、浅川は、それを見て、猛省していると勝手に捉えて自分で勝手に納得した。


さて、こっからが本題だ。

お泊り交渉をしないといけない。


「ところで浅川、今日泊まってもいいか?」


直球勝負ッ‼


「別に悪くはないけど、こいつはどうするのさ?」


林童を指差して言う。


「お前はどうしたいんだ?」


林童に聞いて見たが、林童は、未だに俯いたままだ。


「いや、反省してくれるのは良いけど、そこまで思い詰めなくても、確かに死ぬ思いだったけど、俺無事だし」


ずっと俯いたままの林童を心配してか、浅川は、なんとか、話しかけているが、その努力は虚しくも、彼女の耳には全く入っているようには見えない。


「お前が良いなら、こいつも泊めてやったらどうだ? 訳有りっぽいし」

「いや、訳有りの人を泊めるのが一番厄介だと思うんですけどね」

「そりゃそうだが、一晩くらいならいいんじゃないか?」


はぁーっと溜息を吐くと、浅川は、風呂を入れてくると言って、浴室へ向かって行った。

林童は、それを見送ると、こちらへ振り返り、少し安心したような表情で口を開いた。


「その、ありがとう…、詳しくは話せないけど、今は家に帰りたくないんだよ」


そんな事は、見ればわかるさ。


「言ったろ。俺も訳有りだ、大体わかるさ」


それを聞くと、そう、と呟いて、また顔を伏せた。

と、ほぼ同時に、浴室から軽快な水音が聞こえ、それとほぼ同時に、浅川が戻ってきた。


「おまたー」

「おう、うんじゃ飯よろしく」

「わかった、ちょっと待ってろ…って、久しぶりに合った友人の家に上がり込んでるには、随分な態度ですね」

「まぁ、こんなもんだろ?」

「何がこんなもんなのさッ⁉ まぁ、良いけどさ…、知ってるとは思うけど、僕は料理出来ないよ?」


自炊しろよ。

と、つい突っ込みを入れたくなる。

しかし、困った、今日の晩飯のアテが無くなった。

ちらっと、林童を見る、弱冠の中学生家出少女。儚い期待は潰えた。


「出前でも頼んでくれ」

「本当、図々しいっすね、あんたッ!」

「俺ピザで良いや」

「…、じゃあ、私は握りずしで」

「あぁー、もう、そんな金ねぇよ」


だろうな、てか自炊しやがれってんだ。


「じゃあ、飯どうすんだよ、てか、食材とか置いてないのか?」

「一応、米が、そこに、簡単な食材なら冷蔵庫に入ってる」

「問題は、作り手だけか」

「だな」


ギロリと、林童を見る。

視線に気付いた林童は、包丁で何かを切るようなマネをして、なんか、アピールしているが、そこはあえてスルーしておく。


お決まりの、奇跡的な不味さの料理ぃーとか出てきたら、折角九死に一生ものの奇跡的な生還を果たした浅川や、並の人間な俺は、確実に三途の川の向こう側へ押しやられてしまう事だろう。


さて、どうしたものか。


まぁ、この際どうでも良い、腹が膨れればそれで良い。

林童は、勝手に台所へ歩いて行ったし、浅川は、食糧調達にコンビニへ走った。

俺は、その場で横になり、何気なくテレビを眺める事にした。

   

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