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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン


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エピソード7 バックヤード

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 彼女には、

何も言えなかった。


正解が分からなかったし、

何か言える立場でもなかった。


彼女の通うホストクラブの近くまで送って、

そこで別れた。


ネオンの色が、

店ごとに違う。


――あの中の、

どこかに彼女は入っていく。


そう思うと、

胸の奥が、少しだけ重くなった。


帰り道、明日の出勤が、

少し嫌になった。


でも、

そう思ったところで、

何も変わらない。


一夜明けて、

出勤の時間は来る。


昨日の彼女が、

客になるわけでもない。

指名が入ったわけでもない。


今のところ、

何も進展していない。


今日も、店を綺麗にして、

先輩の話に相槌を打って、それで終わる。


そう思っていた。


バックヤードで

少しだけ腰を下ろしていると、

先輩が声をかけてきた。


酒の匂いが、

近い。


「なあ」


軽い口調だった。


「入ってきた時からさ、

お前の髪色、気に入らないんだよなー」


一瞬、

何を言われたのか分からなかった。


俺の髪は、

紫だった。


派手すぎないように、

少し落とした色。

それでも、目立つのは分かっている。


「……すみません」


とりあえず、

そう言った。


先輩は、鼻で笑った。


「ホスト向きじゃないんだよ。その色」


理由は、

言わない。


「売れてから、好きな色にしろよ」


売れていない人間には、

選ぶ権利がない。


その言い方で、

十分だった。


「どうせ、今は掃除組だろ?」


冗談みたいに言う。


周りに、

誰もいないことを確認してから、

続けた。


「目立つこと考える前に、

役に立てよ」


その言葉が、

胸に残った。


昨日、

彼女が言っていた。


洗脳。

一年半。

二十万。


安心でも、

楽しさでもない。


――役割。


この店でも、

俺の役割は、

はっきりしている。


掃除して、立って、

相槌を打つ。


先輩は、

それだけ言って、

フロアに戻っていった。


バックヤードに、

一人残る。


鏡に映る、

紫の髪。


昨日までは、

自分らしさだと思っていた。


でも今は、

ただの、余計な色に見えた。


明日、

染め直そうか。


そう考えた瞬間、

少しだけ、

悔しくなった。


 そんな時、

スマホが鳴った。


画面に表示された名前を見て、

一瞬、息が止まる。


みくだ。


この前カフェで一緒にアフター待ちをした。

バンド時代を知っている、

あの頃の俺を知っている女性。


電話に出る。


「……もしもし?」


返事は、

なかった。


代わりに、

小さな、

すすり泣く音だけが聞こえる。


息を吸う音。

吐く音。

言葉にならない声。


「どうしたの?」


少しだけ、

声を落とす。


「話せる?何があった?」


質問を重ねても、

答えは返ってこない。


ただ、

泣く音だけが、

途切れ途切れに続く。


フロアのざわめきが、

一気に遠のいた。


「……大丈夫だよ」


自分でも、

何を言っているのか、

よく分からなかった。


しばらくして、

ようやく、

声が聞こえた。


「……いまから、

お店、行ってもいい……?」


震えた声だった。


泣きながら、

必死に言葉をつないでいる。


その一言で、

頭の中が真っ白になる。


新人。

指名ゼロ。

まだ、

何もできない。


それでも、

電話の向こうで、

誰かが、

助けを求めている。


「……うん」


返事は、

考える前に、

口から出ていた。


「来て。

俺、いるから」


言った瞬間、

自分が

何を引き受けたのか、

少し遅れて理解する。


切れた電話。


スマホを握ったまま、

しばらく動けなかった。


安心。

価値。

洗脳。

依存。


頭の中を、

いろんな言葉がよぎる。


でも今は、

そんなことを考えている余裕はない。


誰かが、

この店に来ようとしている。


理由は、

分からない。


それでも、

俺はここにいる。


バックヤードを出て、

フロアに向かう。


ネオンが、

さっきより、

少しだけ眩しく見えた。


――これは、

初めての“仕事”かもしれない。


そう思った。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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