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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン


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エピソード5 ナンバーワン

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 営業が終わると、

新人はそのまま解散、とはならない。


「街、出ようか」


そう言われて、

何人かの新人と一緒に、

歌舞伎町の外に出る。


目的は一つ。


後日、

客として店に来てもらうためのナンパ。


正直、

気が重かった。


営業中に席にすら立てない人間が、

営業後に街で声をかける。


理屈としては、わかる。


でも、

自信は、どこにもなかった。


数人で固まりながら、

通りを歩く。


声をかける。

無視される。

目も合わせてもらえない。


それを、

何度も繰り返す。


――きつい。


そのときだった。


「なつかしいねー!」


明るい声がして、

振り返る。


そこにいたのは、

ナンバーワンの春さんだった。


スーツ姿で、

余裕のある笑顔。


「俺も新人の頃、

よくやったよー、これ」


そう言って、

俺たちを見回す。


「せっかくだからさ、

ナンバーワンの俺が

完璧なお手本、見せてあげるよ!」


新人たちが、

一斉に空気を正す。


――来た。


春さんは、

ちょうど前を通った女性を見つけると、

一歩前に出た。


そして、

片手を高く上げて、

満面の笑みで叫ぶ。


「へい!彼女!

イケメンおにーさんと

あそばなーい!?」


声は、

夜の街に、

気持ちいいくらい響いた。


……。


女性は、

一瞬も立ち止まらない。


視線も、向けない。


完全な、スルー。


春さんは、

そのまま手を下ろし、

何事もなかったように振り返った。


「ま、こんな感じよ」


そう言って、爆笑する。


「がんばってー!」


そのまま、

タクシーを止め、

笑いながら乗り込んでいった。


残された俺たちは、

しばらく、

誰も声を出せなかった。


――今のが、

ナンバーワン。


完璧なトークも、

必勝の言葉も、

なかった。


あるのは、

全力で滑って、

それを笑える余裕だけ。


その背中を見送りながら、

思った。


売れている人間は、

恥をかかない人じゃない。


恥を、

価値に変えられる人なんだ。


そう思えた瞬間、

さっきより、

少しだけ、

声が出しやすくなった。


 声をかけ続けていると、

不意に、後ろから声をかけられた。


「あれ?

〇〇さんですよね?」


本名だった。


一瞬、

何を言われたのか分からなかった。


振り返ると、

そこにいたのは、

どこか見覚えのある女性だった。


よく考えて、思い出す。


ライブハウス。

物販の列。

端のほうで、

何度か視界に入った顔。


「あ……」


言葉が、

うまく出てこない。


「バンド、やめてホストやってるんですね」


責めるでもなく、

驚くでもない。


ただ、

事実を確認するみたいな声だった。


一瞬、逃げたくなった。


でも、誤魔化す理由もなかった。


「そうなんだ。

今はこの店で、奏楽って名前でやってる」


少し間を置いて、聞いてみる。


「ホスト、よく行くの?」


女性は、

当たり前みたいにうなずいた。


「はい。担当一筋です。

今日も、アフター待ちで」


その言葉に、

胸の奥が、きゅっと縮む。


新人で、

まだ一度も指名されたことのない俺と、

すでに“担当”を持っている彼女。


立場が、

はっきりしていた。


「……まだ時間あるなら、

少し、どこかで話さない?」


気づいたら、

そう言っていた。


断られるかもしれない。

それでもよかった。


彼女は、

少し考えてから、

うなずいた。


「じゃあ、少しだけ」


向かったのは、

二十四時間営業のカフェだった。


明るすぎる照明。

夜でも、逃げ場のない空間。


コーヒーを頼んで、

向かいに座る。


俺の中には、

聞きたいことが、

山ほどあった。


どうしたら、

指名につながるのか。


担当として、

何が魅力なのか。


新人の俺に、

何が足りないのか。


歌舞伎町って、

結局、

何なんだ。


でも、

どこから聞けばいいのか、

分からない。


彼女のほうが、

先に口を開いた。


「……正直に言っていいですか?」


うなずく。


「今の奏楽さん、

まだ、“ホスト”じゃないです」


胸に、

そのまま刺さった。


「でも、嫌いじゃない」


その一言で、

救われる。


彼女は、

担当の話をした。


なぜ、

その人を選んだのか。


何に、

お金を払っているのか。


楽しさじゃない。

優しさだけでもない。


「安心、ですね。」


その言葉が、

静かに残った。


帰り道、

歌舞伎町のネオンが、

さっきよりも、

少し違って見えた。


でも、

答えの一部は、

確かに、ここにあった。

よんでいただきありがとうございます。

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今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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