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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン


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エピソード55 嫉妬

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


今日は休みだ。


ららと、電話の約束がある。


休みの日でも、 完全に気が抜けることはなくなった。


誰から連絡が来るか。


何を返すか。

どこまで返すか。


そういうことを、 頭のどこかでずっと考えている。


でも、ららとの電話は、 少しだけ違う。

営業でもある。


でも、それだけじゃない。 そんな曖昧なところに、 いつも置かれる。


部屋で横になりながらスマホを見ていると、 着信が鳴った。

ららだ。


「もしもし」


『おはよ』


少し眠そうな声。


でも、 新宿に出てきたばかりの頃みたいな、 張りつめた感じは薄れていた。


「店、どうだった?」


『決まったよ』


「早いな」


『寮つき。 でも新宿じゃない』


「どこ?」


『埼玉寄り』


少しだけ、 間があく。


『歌舞伎からは、 ちょっと遠くなるね』


その言い方で、 ららが何を気にしているのかはわかった。


「会えなくなるわけじゃないだろ」


そう言うと、

電話の向こうで小さく笑った。


『そういうとこだよね』


「なにが」


『そうやって、 ちょうどいいこと言うとこ』


褒められているのか、

刺されているのか、 わからない。


『昨日はどうだったの』


「どうって?」


『お客さんきれたかもって騒いでたじゃん』


「あぁ、ギリギリできてシャンパン入れてくれたよ」


『へえ』


少しだけ、

声が低くなる。


『で、アフターした?』


「した」


『そっか』


その一言だけで、 空気が少し変わる。

責めてはいない。


でも、 気にしていないわけでもない。


「嫉妬してるの?」


電話の向こうで、

ららが少しだけ黙った。


『してたら、だめ?』


思ったより、

まっすぐ返ってきた。


冗談っぽく笑ってごまかすのかと思った。


でも、

ららはごまかさなかった。


「だめじゃないよ」


そう言うと、

小さく息を吐く音がした。


『よかった』


少しだけ、

安心したみたいな声。


でもすぐに、

いつもの温度に戻る。


『でも嫉妬っていうより、

確認かな』


「確認?」


『うん』


『奏楽が、

誰にどう時間使うのか』


『ちゃんと見てる』


その言い方が、

らららしかった。


感情だけじゃなくて、

ちゃんと頭でも見ている。


『で、その子には

何返したの?』


「アフター」


『そうじゃなくて』


一拍。


『意味』


また、

そこか。


ららはいつも、

金額の話をしているようで、

最後は意味の話に戻ってくる。


「十回記念だったんだよ」


「ギリギリまで働いて、

シャンパン代作って、

走って来た」


『へえ』


今度は、

さっきよりも少しやわらかい声だった。


『それは、

ちゃんと返して正解』


「お前、怒るかと思った」


ららは笑う。


『怒るよ』


『でも、

それとこれとは別』


『その子が積み上げた十回と、

ららが押した三十万は、

重さの種類が違うだけで、

どっちも本物でしょ』


胸の奥が、

少し静かになる。


『奏楽さ』


「ん?」


『誰か一人だけ見てれば売れるわけじゃないよ』


『でも、

誰にも意味を返せないと、

もっと売れない』


その言葉は、

慰めじゃなかった。


ちゃんと、

教えてくれている声だった。


「難しいな」


『難しいよ』


『だから面白いんでしょ』


電話の向こうで、

何か袋の音がした。


たぶん、

コンビニか何かで

買い物でもしてるんだろう。


「新しい店、どう?」


『まだ出勤してないからわかんない』


『でも寮は前より静か』


「よかったじゃん」


『うん』


少しだけ間。


『静かすぎて、

逆に変な感じするけど』


その一言に、

新宿へ出てきたばかりの

ららの顔が浮かぶ。


窓のない部屋。

薬のゴミ。

“いかないで”

って言ってた夜。


そこから比べたら、

今は少しだけ

前に進んでいるんだろう。


「なあ、らら」


『なに』


「名前、慣れた?」


電話の向こうで、

少し笑う。


『ちょっとだけ』


『でも、

店ではまだ前の名前の感じで呼ばれそうになる』


「じゃあ余計に、

俺だけちゃんと呼ばないとな」


ららは少し黙った。


『……そういうとこだよ』


またそれを言う。


「だからなんだよ」


『そういうとこが、

嫉妬するって言ってんの』


今度は、

少しだけ甘い声だった。


俺は天井を見る。


営業でもある。

でも、それだけじゃない。


ららとの電話は、

いつもその境目に置かれる。


『ねえ』


「ん?」


『今度、

その指輪して会いに来てよ』


「いつもしてるだろ」


『見せに来てってこと』


「はいはい」


『はいは一回』


「はい」


ららが笑う。


その笑い方は、

最初に会った頃より

ずっと軽くなった。


でも、

軽くなったからって

背負ってるものが消えたわけじゃない。


たぶん、

見せ方が変わっただけだ。


『じゃ、

そろそろ行くね』


「もう?」


『出勤前の買い物あるし』


「ああ、そっか」


『奏楽も休みだからって

だらけすぎないでよ』


「わかってるよ」


『ほんとに?』


「半分くらい」


『だめじゃん』


また笑う。


『じゃあね』


「おう」


『……あ、あと』


「ん?」


『嫉妬してるの?って聞かれたの、

ちょっとムカついたから』


「なんでだよ」


『してるに決まってんじゃん』


それだけ言って、

通話が切れた。


画面が暗くなる。


部屋は静かだった。


休みの日なのに、

心は全然休まらない。


でも、

それを嫌だとは思わなかった。


誰かの時間を預かって、

誰かの気持ちの端っこに座る。


歌舞伎町って、

そういう仕事なんだろう。


スマホを胸の上に置いて、

目を閉じる。


休みなのに、

頭の中には

らら、リコピン、メロ、まお、みこち。


一人消えると、

一人増える。


そうやって、

少しずつ

この街が自分の中に広がっていく。


たぶん、

飲み込まれるって、

こういうことなんだろうなと思った。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします。

いただいた方にはお返ししに行きます。

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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