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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン


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エピソード52 ちょっと特別

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 バーに着くと、

リコピンは少し緊張しているのか、

さっきまでよりおとなしくなった。


店に入って、

席に案内されるまでの間も、

きょろきょろと周りを見ている。


そして、

俺の耳元で小さくささやいた。


「奏楽は、

よく来るの?」


「なんでそんな小声なんだよ」


思わず笑う。


「普通にしゃべって平気だよ」


リコピンは、

少し恥ずかしそうに肩をすくめた。


「まあ、

アフターでちょこちょこかな」


そう答えると、

リコピンは少しだけ黙った。


「……しゃべっていいんだ」


「そっかぁ」


その言い方に、

少し引っかかるものがあった。


「ほかの子と

同じとこか」


やっぱり、

そこか。


「そんな言い方は

やめてくれ……」


苦笑いしながら言うと、

リコピンはストローの袋をいじりながら、


「だってさ」


と、

少しだけ口を尖らせた。


「今日、

十回記念だったし」


「なんか、

もっと特別かと思ってた」


その言葉に、

少しだけ胸が痛くなる。


リコピンにとって今日は、

ただのアフターじゃない。


十回目の続きで、

ご褒美みたいな時間なんだ。


俺は、

メニューを開きながら言った。


「場所が同じでも、

今日が特別なのは変わらないだろ」


リコピンは、

ちらっとこっちを見る。


「……ほんとに?」


「ほんとだよ」


そう言うと、

ようやく少しだけ笑った。


「じゃあ許す」


「えらい?」


「今日はえらい」


リコピンは満足そうに、

背もたれにもたれた。


バーの照明は暗くて、

店の中にはゆるい音楽が流れている。


さっきまで

シャンパンコールの中心にいたのに、

今は二人で静かに座っている。


その温度差が、

少しだけ心地よかった。


バーの照明は暗くて、

店の中にはゆるい音楽が流れている。


さっきまで

シャンパンコールの中心にいたのに、

今は二人で静かに座っている。


その温度差が、

少しだけ心地よかった。


リコピンはストローを指でいじりながら、

ふとこっちを見た。


「奏楽って、

ほかの子ともこういう感じなの?」


まっすぐな質問だった。


責めているわけじゃない。

でも、

答え方を間違えると

一気に空気が変わるやつだ。


「こういう感じって?」


少し時間を稼ぐように聞き返す。


リコピンは、

グラスの氷を揺らしながら言う。


「なんかさ」


「優しいし」


「ちゃんと話聞くし」


「安心する感じ」


そこで少し笑った。


「奏楽って、

お兄ちゃんみたい」


一瞬、

予想外の言葉で返しに困る。


「お兄ちゃんいないけど」


その軽い付け足しのあと、

さらに軽い調子で続けた。


「お父さんもいないの!」


俺は思わず顔を上げる。


リコピンは、

いつものテンションのまま言った。


「捕まったんだって!」


明るく言うには、

重すぎる言葉だった。


でもリコピンは、

そこで空気を止めさせないようにするみたいに、

すぐストローをくわえる。


たぶん、

こういう話を

重くしない癖があるんだろう。


俺は少し黙ってから、

静かに聞いた。


「……いつ?」


「ちっちゃい時」


あっさり。


「だからあんま覚えてないよ」


そう言って笑うけど、

その笑い方は

いつもより少しだけ薄かった。


「お母さんが頑張ってくれたし、

別に不幸アピとかじゃないからね?」


先に予防線を張る。


それも、

癖なんだと思う。


「わかってるよ」


俺はそう言って、

グラスを持ち直した。


「でも、

お兄ちゃんっぽいは

ちょっと複雑だな」


リコピンが、

ようやくいつもの顔で笑う。


「なんで?」


「ホストとしては

あんまりよくないだろ」


「えー、

でも安心するの大事じゃん」


その返しに、

少しだけ詰まる。


安心。


またその言葉だ。


りんも、

みくも、

結局そこに触れていた。


「安心するけど、

つまんないわけじゃないよ」


リコピンは、

俺を見ながら言った。


「むしろ、

そういうのの方が

ハマる人はハマるんじゃない?」


みこちの

“危ない”

という言葉が、

頭をよぎる。


この街では、

優しさも、

安心も、

武器になる。


でも同時に、

依存の入口にもなる。


「ほかの子とも、

こういう感じなの?」


リコピンが、

もう一度聞いた。


今度は、

逃げずに答える。


「全部一緒じゃないよ」


「リコピンには、

リコピン用の感じ」


リコピンは一瞬、

黙った。


それから、

少し照れたみたいに笑う。


「なにそれ」


「ホストじゃん」


「ホストだよ」


そう返すと、

リコピンはストローを噛みながら、

小さく言った。


「じゃあ、

今日の私は

ちょっと特別ってことにしとく」


「十回記念だしね」


その言い方が、

ちょうどよかった。


重すぎず、

でも軽すぎない。


俺は少し笑って、

グラスを上げる。


「十回記念に」


リコピンもグラスを持つ。


「十一回目も、

ちゃんと来るからね」


その言葉に、

俺はうなずいた。


バーの暗い照明の中で、

リコピンの横顔は

少しだけ大人びて見えた。


でもたぶん、

こうやって明るく笑ってないと

バランスが取れない子なんだろうな、

とも思った。


だからこそ、

今日ここに来てよかったのかもしれない。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします。

いただいた方にはお返ししに行きます。

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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