エピソード51 アフター
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
間もなくして、
会計になった。
楽しかった空気が、
少しだけ現実に戻る時間。
リコピンは、
伝票を見ても
顔色ひとつ変えなかった。
さっきまでの笑顔のまま、
財布を開く。
その手元を見ながら、
思う。
このお金は、
ギリギリまで働いて、
走ってきて、
間に合わせてくれたお金だ。
十回記念にしたくて、
今日じゃなきゃ意味がなくて、
そのために稼いできたお金。
お金の価値は、
誰にとっても変わらない。
一万円は一万円だし、
十万円は十万円だ。
そこに、
ホストだからとか、
シャンパンだからとか、
特別な理屈はない。
だからこそ、
重い。
リコピンが払ったのは、
ただの会計じゃない。
今日ここに来るための時間と、
労力と、
気持ちごと払っている。
その事実を、
軽く受け取っちゃいけないと、
改めて思った。
「ありがとね」
俺がそう言うと、
リコピンは、
いつもの調子で笑った。
「十回記念なんだから、
当たり前じゃん」
その軽さに、
少しだけ救われる。
でも、
軽く流していい話じゃない。
この街にいると、
金額だけで
物事を見そうになる。
けど本当は、
金額の向こう側を
見なきゃいけない。
誰が、
どんな気持ちで、
この金を使ったのか。
それを忘れたら、
たぶん、
飲み込まれる。
会計を終えたリコピンは、
満足そうに
伝票をテーブルに戻した。
「よし、
十回クリア」
そう言って笑う顔は、
妙に晴れやかだった。
俺はその顔を見て、
今日のこのシャンパンを、
売上だけで終わらせちゃいけないと思った。
俺は気づいたら、
「アフターいく?」
と、声をかけていた。
リコピンは一瞬、
目を丸くした。
「え、いいの?」
さっきまでの勢いとは違う、
少しだけ素の声だった。
俺は小さくうなずく。
「今日は、行こう」
「十回記念だし」
リコピンは、
ぱっと笑った。
「やった!」
その顔を見て、
やっぱり誘ってよかったと思う。
でも同時に、
頭のどこかでは考えている。
これは、
還元だ。
今日ここに来るために働いて、
シャンパンを入れて、
十回に意味を持たせてくれた。
その気持ちに対して、
ちゃんと時間で返したい。
売上のためだけじゃない。
でも、
仕事じゃないとも言い切れない。
その曖昧さごと、
ホストなんだろう。
「どこ行く?」
「どこでもいいよ!」
「奏楽が連れてってくれるとこなら」
少し考える。
メロとはよく行くバーがある。
でも、
リコピンをそこに連れていくのは初めてだ。
「じゃあ、
バーでも行くか」
「バー!
大人っぽ!」
大げさに喜ぶ。
「お前もう十分飲んでるだろ」
「今日は十回記念だから、
まだいける!」
そう言って、
リコピンは嬉しそうに立ち上がる。
さっきまで
“十回記念の姫”だったのに、
もういつものリコピンに戻っている。
その切り替えの早さが、
少しだけありがたかった。
フロアを出る前、
一瞬だけ振り返る。
ネオン。
空いたグラス。
笑い声の残り香。
今日、
ここで起きたことは、
全部仕事だった。
でも、
この先の時間が
全部仕事だと言い切るには、
少しだけ無理がある。
だからこそ、
危ないのかもしれない。
「奏楽、はやくー」
先を歩くリコピンが、
振り返って手を振る。
俺はその背中を追いながら、
思う。
今夜のアフターは、
たぶん、
ただのご褒美じゃない。
十回目の続きを、
ちゃんと作る時間だ。
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