エピソード50 自慢の姫
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
テーブルについた瞬間、
すぐにシャンパンコールが始まった。
さっきまでの不安が、
そのまま光と音に変わったみたいだった。
店内の照明が落ち、
ストロボが跳ねる。
レーザーが天井を走って、
シャンパンのボトルが
やけにまぶしく見える。
従業員が集まる。
リコピンは、
まだ少し息を切らしながら笑っている。
汗で前髪が少し張りついているのに、
顔だけは、
いつも通り明るい。
「素敵な姫からの一言まで、
さんさん! にーにー! いちいち!」
マイクがリコピンに渡る。
リコピンは一瞬、
まじで?
みたいな顔をしてから、
すぐに笑った。
「えー、十回記念です!」
店内が少し沸く。
「十回は少ないと思います!
でも私の中では、頑張った十です!」
また少し、
歓声が上がる。
「初回ばっか行って、
ろくに通ったことがなかった私を、
十回も来させちゃう奏楽は、
新人だけど立派な担当様です!」
店内が、
また沸く。
「十回なんかじゃ物足りないです!
これからも通わせてください!
よいしょ!」
最後だけ、
少し照れくさそうに笑った。
リコピンが、
今まで初回ばかりだったことなんて、
初耳だった。
歓声の中、
マイクが俺に回ってくる。
「そんな王子からひーとーこーとー!
いただきますっ! よいしょ!」
俺はマイクを持つ。
「えー、まず、シャンパンありがとう」
店内が少し静かになる。
「十回記念を今日に合わせるために、
走って来てくれたみたいです」
そこで、
リコピンを見る。
「自慢の姫です」
少し間を置いて、
続ける。
「毎回来てくれてることも、
ちゃんと数えてくれてることも、
全部うれしいです」
マイク越しでも、
ちゃんと届くように言う。
「これからも、
二十回、三十回って、
ちゃんと意味ある日にしていけるように、
一緒に頑張ります!」
最後に、
少しだけ笑う。
「今日は間に合ってくれてありがとう。
よいしょ」
思っていたより、
ちゃんとしたマイクになった。
従業員が煽って、
シャンパンが開く。
泡の音。
歓声。
拍手。
リコピンは、
さっきまで汗だくでカウンターにいたのに、
もうすっかり
この卓の主役みたいな顔をしていた。
「はい、乾杯!」
リコピンがグラスを上げる。
俺も上げる。
グラスが触れる。
注がれたシャンパンを飲みながら、
思う。
ららとは、
同じシャンパンなのに、
違う味がする。
「今日、来てよかった」
その一言が、
何より効いた。
三時間来なくて、
もう来ないかもと思っていた。
ラインも知らない。
繋ぎ止める手段もない。
でも、
この子は来た。
遅れてでも、
汗だくでも、
仕事終わりでも。
来た。
その事実が、
たぶん今日のどの売上よりも、
俺には大きかった。
フロアの向こうでは、
別の卓の笑い声がしている。
でも今だけは、
ちゃんとこの席にいようと思った。
「リコピン」
「んー?」
「十回目、ありがとな」
リコピンはシャンパンのグラスを持ったまま、
少しだけ目を細めた。
「じゃあ次は、
二十回でまたなんかしよ」
「気が早いな」
「毎出勤なめんなよ?」
その言い方が、
いつも通りで、
なんだか少し安心した。
シャンパンコールは派手だったけど、
この卓は、
派手さじゃなくて、
積み重ねでできている。
そう思えた夜だった。
よんでいただきありがとうございます。
感想、評価、レビュー思ったままにお願いします。
いただいた方にはお返ししに行きます。
ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。
今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。




