エピソード47 竜宮城
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
俺は眉をひそめる。
「飲み込まれるってなんだよ」
みこちは笑う。
「そのまんま」
「この街にいるとさ」
指でテーブルをトントン叩く。
「普通の感覚、なくなるんだよ」
「普通?」
「うん」
みこちは指を折りながら言う。
「昼夜逆転」
「酒」
「金」
「恋愛」
「全部ぐちゃぐちゃ」
「最初はみんな“仕事”って言うの」
「でも」
少しこっちを見る。
「そのうちわかんなくなる」
「なにが?」
「仕事と」
「本気」
部屋が少し静かになる。
カラオケの映像だけが流れている。
「ホストも」
「客も」
「どっちも」
みこちは笑う。
「飲み込まれる」
みこちは天井を見ながら言った。
「歌舞伎町って、竜宮城なんだよね」
俺は笑う。
「急に童話かよ」
みこちは肩をすくめる。
「だってそうじゃん」
「お酒あって」
「女いて」
「男いて」
「お金が回って」
「毎日お祭りみたい」
少し間。
「浦島太郎もさ」
「楽しいから帰らなかったんでしょ」
俺は言う。
「最後、帰ってたじゃん」
みこちは首を振る。
「帰ったときには」
「もう全部なくなってたじゃん」
カラオケのモニターに
海の映像が流れる。
「この街も同じ」
「気づいたら」
「時間めっちゃ経ってる」
少しだけ笑う。
「でさ」
「箱開けたら」
「おじいちゃん」
俺は苦笑いする。
「縁起でもないな」
みこちはこっちを見る。
「だからさ」
「奏楽」
「早めに気づいたほうがいいよ」
「竜宮城に住むのか」
「遊びに来てるだけなのか」
俺は少し考えて、
肩をすくめた。
「俺はまだ」
「乙姫に会ってない」
みこちは一瞬きょとんとする。
それから吹き出した。
「なにそれ」
「急に主人公みたいなこと言うじゃん」
「童話の続きだろ」
俺はグラスを回す。
「乙姫に会ってないのに」
「帰る理由もない」
みこちは笑いながら首を振る。
「危ないなぁ」
「そういう男」
少しだけ真面目な顔になる。
「乙姫に会ったら」
「たぶん帰れなくなるよ」
カラオケのモニターには
また海の映像が流れている。
しばらく沈黙。
みこちはグラスを指で回していたが、
急に力が抜けたように
テーブルに突っ伏した。
「……おい」
返事はない。
肩を軽くつつく。
「みこち?」
小さく寝息が聞こえる。
さっきまであんなに喋っていたのに、
もう完全に落ちている。
「回るタイプって本当なんだな」
俺は苦笑いした。
カラオケのモニターには、
まだ海の映像が流れている。
竜宮城か。
この街が本当にそうなら、
俺はいま、
どこまで潜っているんだろうな。
気づいたら、
俺も寝てしまっていた。
カラオケの退出10分前のコールが鳴り、
その音で目が覚める。
みこちは、
まだテーブルに突っ伏したまま寝ている。
「みこち、起きて」
「退出の時間だよ」
肩を軽く叩く。
「んー……」
ゆっくり顔を上げて、
俺を見る。
「……なんであなたがいるの」
まじか。
そこから覚えてないのか。
俺は苦笑いする。
「カラオケで寝てたんだよ」
「アフター」
「え、まじ?」
みこちは頭を押さえる。
「やば」
「全然覚えてない」
カラオケを出て、
駅まで一緒に歩く。
朝の歌舞伎町は、
夜と違って少しだけ静かだ。
歩きながら、
さっきの話をもう一度する。
竜宮城の話。
みこちは何度も首を振る。
「ほんと覚えてない」
「やばい」
でも少し笑って言う。
「でもさ」
「なんか」
少し考えてから、
肩をすくめる。
「いつもより楽しかった気がする」
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