エピソード38 価値
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
麻衣と茉奈は、いつも通り少し早めに立ち上がった。
「今日も楽しかったよー」
軽いトーン。
でもちゃんと満足している顔。
この二人は、
最後までいると必ず終電を逃す。
だから少し早めに出る。
それがいつものリズム。
「ありがとね、気をつけて帰って」
「次はもっとちゃんと回れるようにするわ」
茉奈が笑う。
「今日ちゃんと回れてたよ」
「今度は私たちもシャンパンいれたいな」
ドキッとする。
「期待しないで」
そう言って手を振る。
麻衣が言う。
「奏楽、茉奈悲しますなよー」
去り際に残す一言が重い。
ドアが閉まる。
アイバン卓、無事終了。
麗が肩をぽんと叩く。
「今日は上出来っす」
「ちゃんと回せてましたよ」
少しだけ息を吐く。
でもまだ終わっていない。
フロアを見渡す。
A3にリコピン。
C1にらら。
二人とも残っている。
そして。
“最後どこにいるの?”
今日何度も聞かれた言葉。
ここからが本番だ。
ららの席に戻る。
「ただいま」
ららはグラスを置いて、あっさり言った。
「おかえり。私、先出るから後で来て」
「え?最後までいないの?」
「うん。だって被りが最後いてほしがるでしょ?」
何でもお見通し。
怖いくらい、正解を知ってる。
俺が最後にどこへ行くかで、
今後の流れが決まることも。
「敵わないや。ありがとうね」
ららは淡々としている。
「会計ちょうだい」
ボーイが持ってきた伝票を見る。
ワンケース。
シャンパン。
テーブル料金。
諸々。
「298,000円になります」
ららは数字を見て言う。
「298,000だって。やすいね」
「いや!やすくないよ!ごめん、ありがとう」
反射で謝る。
すると、ららが真顔になる。
「は?」
「ららは奏楽の価値に金払ってるんだから、ごめんとか言うな」
刺さる。
逃げた自分に。
「ららはね」
少しだけ柔らかくなる。
「今日一日の奏楽見てて、30万安いと思ったの」
「もっと特別で、価値のある時間すごさせてもらった」
金額じゃない。
評価だ。
「そう思ってくれてありがとう」
今度は、
ちゃんと目を見て言う。
ららは立ち上がる。
「最後、ちゃんと行ってあげなよ」
「逃げないでね」
逃げない。
今日何度も出てくる言葉だ。
ららは先に店を出た。
強い。
でも、去り際に一瞬だけ
振り向いた目は、
少しだけ寂しかった。
フロアを見る。
A3。
リコピン。
今日、
最後を欲しがっていた子。
ゆっくり歩く。
今夜の締めはここだ。
「ただいま」
リコピンは腕を組んでいる。
「ふーん」
「ちゃんと来たね」
「約束だからな」
リコピンが小さく笑う。
「今日さ」
「最後、私でいいの?」
答えは一つしかない。
「今日はお前で締める」
空気が変わる。
リコピンは照れ隠しで言う。
「えらい?」
「えらい」
「最強」
リコピンは嬉しそうに笑う。
この10分で、
関係は一段階上がる。
そして俺は、
最後を選んだ。
ホストは、
金だけじゃない。
でも金は嘘をつかない。
今夜の売上。
約30万+α。
でも本当に得たのは、
序列と、
覚悟と、
自分の立ち位置。
まだ器は小さい。
でも今日、
少しだけ“回せた”。
夜が終わる。
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