エピソード36 呼び出し
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
きっと。
指輪とネックレスを見て、
今日の被りが普通じゃないと
気づかせてしまったんだな。
そのとき、
麗に呼ばれた。
「今日アイバン来ます。三卓っすね。大丈夫っすか?」
三卓。
頭が一瞬止まる。
「正直、二卓でいっぱいいっぱいだよ」
言ってから後悔した。
弱音。
ダサい。
麗はすぐ言った。
「わかりました。極力俺が二人相手します。俺四卓っすけどね」
くそう。
二卓で手一杯なんて、
恥ずかしいこと言ったな。
でも事実だ。
俺はまだ、
“器”が小さい。
少しして、
アイバン卓が入った。
「ちょっと行ってくるね」
リコピンは上目遣い。
「約束だからね」
「わかってるよ」
言葉にするって、
こんなに重いのか。
VIPじゃない。
でも、
緊張感はそれ以上。
アイバンは、
一人の問題じゃない。
麗の顔もかかってる。
テーブルへ。
「麻衣、茉奈、おはよ!ありがとね」
麻衣が笑う。
「えー奏楽、ちょっと見ない間にめっちゃホストになってる~」
茉奈も続く。
「なんか雰囲気違う」
アクセ。
やっぱり見られてる。
「そうかな(笑)ハズイわ(笑)」
照れで流す。
麗が横から入る。
「今日奏楽さんモテ日なんすよ」
やめろ。
余計なこと言うな。
「え、そうなの?」
茉奈の目が少し鋭くなる。
試されてる。
ここでミスると、
アイバン崩れる。
「いやいや、モテ日じゃなくて」
「忙しい日」
正直に言う。
「被ってる」
あえて隠さない。
麻衣がニヤッとする。
「へえ〜、売れてるじゃん」
麗がすぐ拾う。
「だから大目にみてあげてね、茉奈」
助かる。
空気は悪くない。
でも余裕はない。
頭の中は常に時計。
らら。
リコピン。
アイバン。
三方向。
麗が小声で言う。
「奏楽さん、呼吸っす」
はっとする。
焦りは伝染する。
俺が焦れば、
卓も不安定になる。
深呼吸。
そうだ。
量じゃない。
質だ。
三卓を完璧に回すんじゃない。
一瞬一瞬を、
ちゃんと置いていく。
「今日さ」
茉奈が言う。
「最後どっちにいるの?」
きた。
今日、
何度目だこの質問。
“最後”。
ホストにとって、
一番重いワード。
俺は少しだけ笑う。
「最後は」
一拍。
「俺が決める」
逃げない。
媚びない。
「その代わり、全卓ちゃんと楽しませる」
麗が小さく頷いた。
麻衣が笑う。
「奏楽、ちょっと変わったね」
変わった。
たぶん。
店内が暗転。
ストロボ。
レーザー。
低音が床を揺らす。
この曲は──
10万〜30万。
C1?
C1って──
「奏楽卓、素敵な姫よりシャンパンいただきました!」
らら。
血の気が引く。
先輩をかき分けて席へ戻る。
「らら!?どうしたの!?」
ららはグラスを指でなぞりながら笑う。
「戻ってこないから、呼び出してみた」
やばい。
これは“可愛い”じゃない。
“見せしめ”だ。
「素敵な姫からの一言まで、さんさん!にーにー!いちいち!」
マイクが渡る。
座ったまま、余裕でマイクを持つ。
「戻ってくるの遅いと、こうやって呼び出します♡」
店内がどっと沸く。
「だから好きに回ってきていいからね♡」
「お仕事がんばってください♡」
「よいしょ♡」
皮肉。
余裕。
所有。
全部が混ざったマイク。
笑ってる。
でも宣言してる。
“私はこの卓のメインです”って。
リコピンも。
茉奈も。
聞いてる。
確実に。
マイクが俺に回る。
「王子よりひーとーこーとー!」
逃げたい。
でも逃げられない。
「えー、シャンパンありがとうございます」
声が少しだけ固い。
「いきなりでびっくりしたけど、嬉しいです」
「もっと上手く回れるようになります」
「ありがとう」
「よいしょ」
安パイ。
薄い。
逃げた。
シャンパンが開く。
泡が溢れる。
歓声。
ららは俺を見る。
勝った顔じゃない。
安心した顔。
それが一番重い。
“私はここにいるよ”
っていう確認。
コールが終わり、
音が止まる。
一瞬の静寂。
そして視線。
痛い。
店内の視線より、
二卓の視線が痛い。
ららは静かに言う。
「ちゃんと回ってきてね」
命令じゃない。
信頼でもない。
試し。
俺はうなずく。
今夜はもう、
“ただの三卓”じゃない。
ららは金で呼ぶ。
リコピンは時間で縛る。
茉奈は空気で測る。
初シャンパン。
嬉しいはずなのに、
胃が重い。
ホストって、
こんなに怖いのか。
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